思うところ19.「P店(後編)」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ19.「P店(後編)」





    コラム18.「P店(前編)」には、売主側にもう一つのドラマがあった。私は、ブローカーが持ち込んできた土地情報に目を通した瞬間、P店のA社長が買うであろうことを予見した。それ程魅力ある一等地であったのだ。だが、情報の真偽は不明だ。案の定、情報ルートを確認すると「先の先に・・・。」(コラム3.「あんこ」参照)

    因みに、「偽」の売却情報が発生するメカニズムはこうである。悪徳ブローカーが①売れそうな不動産に目を付ける。②勝手に販売図面を作る③ブローカー仲間に情報を流してみる。そして③以降ねずみ算式に所有者の意思とは無関係に売却情報として拡散されていく。(勿論、真面目なブローカーはその様なことはしない。)

    手掛ける不動産を見つけるのは、悪徳ブローカーの嗅覚である。新聞の倒産記事をヒントにすることもあれば、単なる「噂」がきっかけだったりする。販売図面を作成するのも難しくない。法務局で所有者情報等は容易に入手できるし、都市計画等の記載事項は役所に行けば良い。勝手に妥当な値付けをして、もっともらしく販売図面を持ち歩けば、情報を鵜呑みにして客付に動く不動産会社もある。買付(購入申込書)を所有者に提示すると、売物でなかったものが売物となることがあり、少ない労力で大きな報酬を得ることができる。それがブローカーの狙いであり、まさに「千三つ」の世界だ。(売物にならなかった時は、謝罪のみ)

    私は、客付をするにあたり、そのブローカーに条件を提示した。①私を売主に引き合わせること(売却の意思・条件の確認)②契約書作成および重要事項説明書作成は全て私が請負う代わり、売主への直接連絡を認めること。③物元(売主側)に何社介入しようが構わないが、客付側(買主側)に仲介手数料の分配を求めないこと。④契約書に調印する売主側仲介会社は、代表1社のみ(代表が手数料を分配)とすること。

    私は、玉石混淆のブローカー情報への取り組みには消極的ではあったが、この時ばかりは本物の売却情報だった。私は、ブローカー達への非礼を認めつつも、心を鬼にして実務を推し進めた。ブローカー達の過去の自慢話に興味もないし、何よりも競合他社の動向が気になっていた。事実、契約後に判明したことだが、他社が満額買付でこちらの商談転覆を図っていた。売主曰く「本当はね、もっと良い話があったんだ。でもね、君があんまりにも熱心だから言えなくってね。」これは、半分本当かもしれないが半分嘘である。何よりもその「良い話」の真偽を疑ったのだろう。私はその様なことを懸念して、売主に直接話をすることに拘ったのだ。しかも、先読みして「売渡承諾書(紳士協定)」に調印させていた。そして私の商談には疑いの余地のない具体性があった。

    S銀行の応接室を借りて契約の日、約束を違えて契約場所にブローカー達が押し寄せた。ブローカーは実務的なことは手伝おうともしないが、ここぞという機会を見つけて自分の力を誇示、虚勢を張りたがる傾向がある。(
    手数料配分が気になって仕方ないのだろう。)だが、一括決済だから、司法書士等関係者も多く応接室は満席である。私は約束通り1社のみの出席を求めた。契約の場を仕切るのも仲介人の役目だ。ブローカー達と押し問答する私に、状況を察したP店A社長が助け舟を出してくれた。「齋藤君の言うとおりにしてやってくれ。」ブローカー達は契約手続き中、応接室外のベンチで所在なく待つこととなった。

    契約手続きが完了して、応接室を出るとブローカー達と目が合った。その目は怒りに燃えていた。一人が怒りを抑えながら声を押し殺すように言った。「お前の様な若造にこんな屈辱を受けたのは初めてだ。」

    私は筋を通しただけである。今も昔も「千三つ」の世界に仲間入りする気は毛頭ない。
    申し訳ないが、その様な厭味も褒め言葉にしか聞こえなかった。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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