思うところ31.「見積り」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ31.「見積り」




    私は、建築費や改修費の「見積り」をあまり信用しない。しかし、建築工事を発注するに際し、誰に聞いても「相見積もりによる比較検証を重視せよ」と言う。だから異端の考え方であることを否定しない。また、建築費の相場を知らいない一般顧客に同様の考え方が当てはまるものではないことを前置きしておく。

    例えば、マンションのリフォーム工事の発注先を決めるにあたり、請負金額のみを重視して5社の競争入札で行ったとする。果たして一番安く見積もったところが、本当に一番良い施工会社なのだろうか。結果として4社は無駄な見積書作成にエネルギーを使ったことになり、その歪(損)は何処か(他の仕事)に向かうことが疑われる。勝ち残った工務店の請負金額もコスト削減の為に人工(にんく=工事従事者の延人員)を削っただけの見せかけの廉価なら工期の遅延も手抜き工事も心配である。

    鉄部塗装工事を例にして説明すると判り易い。熟練工がその鉄部に適する塗料を使って丁寧に仕上げた塗装は、時間も経費も余分に掛かるがそう簡単には劣化しない。反して施工費に拘るあまり、ケレン作業(汚れや錆びを落として塗料の付着を良くする作業)や錆び止め等の下地処理を疎かにして厚塗り1回で済ませれば、2~3年で塗装面が凸凹に浮き上がってくることを覚悟した方が良い。その場しのぎの「安かろう、悪かろう」では却って割高になるということだ。

    クロス貼りでさえ、あまり単価に拘るべきではない。壁面に凹凸の無い延床100坪超の事務所の一括発注とワンルームの原状回復工事に伴う小規模・単発の施工単価を同列で比べることに何の意味があろう。諸経費を別項目に細分化することにより施工単価が安く演出された見積書を見て喜ぶ者は、まさに故事成語「朝三暮四」の猿のごとく滑稽である。

    「乾いた雑巾をさらに絞る」で言うところの「雑巾」が「知恵」のことではなく、弱い立場の発注先に対する「コスト削減」を意味する恫喝ならば、私はそれに嫌悪感を覚える。乾いた雑巾を剛力で絞り上げれば千切れるだけのことだ。それを「弱い者いじめ」とも言う。本来、コスト削減の為に力を注ぐべきは、VE案(Value Engineering=設計・工法について機能を低下させることなくコスト削減を模索する代替案のこと)や効率的な工事工程の見直し等、当事者それぞれにメリットがある解決策だ。

    当社のリフォーム工事は、原則として工務店を通さずに信用できる大工(多能工)に特命で任せるので自社施工に等しい。お互いに事前打ち合わせなどしなくとも落着する工事費は大体分っている。彼は、工事着手金の請求すらしてこない。工事開始の前日までに工事着手金として総工事費の50%(着手金としては多め)が自分の預金口座に振込まれることを確信しているからだ。時として工事途中で追加入金を要求されることもあるが、それは資材を現金一括で安く仕入れたい時や、即金払いにより人員確保を強化するためである。前向きな費用削減の創意工夫には、前向きに応えることを心掛けたい。

    工事が完了したら、敢えてその日の内に残代金の全額を支払う。彼が安心して「全力」で当社の工事を請け負うことができる理由の一つだ。私は、「信頼関係を損なわない正直な請求書を下さい。」とだけ言っておく。請求明細に誤字脱字が多くて苦笑することもあるが、悩み抜いて彼が出した結論(総額)には、特命受注に応えんとする誠意と次なる現場への意気込みを感ずる。

    彼は、大工仕事が好きで「造ることが楽しい」と言う。人間だからミスもするが、工事完了後も手直しを逃げたことは無い。社員と同様の扱いで「雇用」関係は無いが「信頼」関係がある。見積り不要が何よりの証である。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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