思うところ32.「相場」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ32.「相場」




    相場を聞かれて困惑することがある。突然電話が掛かってきて唐突に聞かれる。「XX町X丁目、土地は今いくらなの?」地元を熟知しているとはいえ、さすがに町名だけでは答えようがないので、物件の概要を尋ねるが「そんなこと教えたら物件が特定されるでしょ。」それはそうだが、場所も分らぬまま相場を答えるのは無責任になると思う。やむなく町内の成約事例等、差し支えない客観的事実を参考情報として答える程度に留める。人にものを尋ねるならば、せめて名前を名乗ってその調査の目的くらいは教えて欲しい。目的が興味本位であっても私は誠実に答えるつもりだ。勿論、守秘義務を遵守する。

    質問する側も冷静に考えて欲しい。商業地に関しては、同じ町内でも目抜き通りに面するか否か、同じ道路付にしても敷地形状によっては全く相場が異なる。収益物件なら現行賃料と適正賃料の検証なくしては精度の高い回答をすることは難しい。50階建のタワーマンションが珍しくない当社の営業エリア(中央区)では、同じタイプの住戸であっても階差が20も違えば、数百万円の価格差が出るのは当然だ。同階であっても眺望の良し悪しで評価が分かれる。

    ビル・マンション用地ならば、本来はボリュームチェック(最大限に容積率を消化したラフプランの作成)が欠かせない。どの位の延床が確保できるのかも分らぬまま適正な相場が算出できようものか。

    仮に同じ立地に隣接する同築年・同構造・同規模の二棟の古ビルがあったとする。誰もが同じ価格を予想することだろう。だが、時として落着価格は大きく異なる。例えば、一方の古ビルがアスベスト(=石綿:現在では使用禁止の発癌性の高い有毒な建材)を使用していたならば、解体費用が格段に跳ね上がるから、その費用負担金を考慮する必要がある。また、印刷工場やクリーニング工場として使われていたものであれば、土壌改良に想定外の費用が掛かることもあるから前述同様の考え方が当てはまる。

    売却物件に心理的な瑕疵がある場合も正直に情報開示のうえ査定依頼をして欲しい。本コラムの読者も「この物件は安過ぎる」と感じた時、物件概要の片隅に「告知事項あり」の文字を見たことはあるまいか。「告知事項」の殆どが自殺・殺人・孤独死・火災等の事件・事故の履歴であって、いずれも価格査定においては、マイナス要因になる。

    本コラム№7「ゴミ屋敷」№26「義憤」に登場する困った人が近くにいるだけでも、その隣人の問題行動によるマイナスの影響は大きく、売主に非は無くとも安値でないと売れない。価格査定でいうところの「流動性比率」は「売行補正」などと難しく考えずに「売り易さ・売れ難さ」という言葉に置き換えると分り易い。「嫌悪施設(例えば「墓地」)」などは、調査すれば容易に分かることだが、当事者にしか分らないことこそ隠すべきではない。しっかりと情報開示することが後の紛争を防ぐことにもなる。

    不動産価格査定の基本的な考え方は、「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」が主だったところだ。取引事例比較法は、主観的要素が大きい住宅地・戸建・区分マンションの査定に適する。投資物件は、客観的な損得で判断すべく収益還元法が適するが、収益は「家賃」とは限らない。だから商業施設も売上を基に収益還元法による査定方法を重視した方が良いと思う。原価法はまだ使用可能な建物の残存価値を確認するには良いが、買主が建替えを前提にしているならば、築浅であっても解体費用分がマイナスになる現実に目を背けてはならない。

    経済学的には、あくまでも「需要」と「供給」のバランスで成立する価格こそが「相場」だと考えれば良い。
    しかしながら、不動産取引は、買主の購入動機や利用方法によっては、異なる幾通りもの結論が導き出される。掘り下げて考えれば奥が深過ぎる。だが、難しいことを簡単に説明しなければならない。そこに我々(不動産業)の存在価値があるのだと思う。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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