【寄稿№54】モナコの大騒動 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 【寄稿№54】モナコの大騒動




    <2023.9.9 寄稿>                                                                              寄稿者 たぬきち
    きっかけは、2019年10月、フランスから出向中のルブロー治安判事が、モナコ側に任期更新を拒絶されたことだった。モナコは独立国だが、司法・警察には、旧保護国フランスから多数の人員を受け入れている。帰国した判事は、「私が、「リボロフレフ対ブービエ」事件を調査していたからだ」と語った。
    ドミトリー・リボロフレフは、モナコに居住するロシアの「オリガルヒ(新興財閥)」の大富豪で、サッカークラブ「ASモナコ」のオーナー。ブービエは、スイスの美術商。2017年にクリスティーズで、リボロフレフ所有のダヴィンチ作「サルバトール・ムンディ(救世主)」を510億円で売却。買い手はサウジアラビア皇太子で、その仲介手数料などをめぐり、二人は争っている。
    リボロフレフは、他にもゴッホやピカソ、マネ、ロダン、マティスなどの収集家。2018年、贈賄と影響力の不当行使で、モナコ検察によって起訴された。富と権力を利用して地元当局に影響を与え、美術商ブービエを逮捕させた疑いである。ルブロー判事の成果だが、リボロフレフをロシアから保護しているモナコ大公アルベール2世には、迷惑だった。
    1966年にロシアのペルミで生まれたリボロフレフは、世界最大のカリウム肥料会社「ウラル・カリ」を経営。2010年、同社株をプーチンの側近に譲渡してロシアを離れ、キプロスのパスポートを取得。時期が早かったため、EUが資産を凍結したオリガルヒのリストには含まれていない。ジュネーブの「フリーポート(保税倉庫)王」と呼ばれたブービエは、居住地をシンガポールにしているが、スイスの税務当局は、この美術商がスイスに在住しており、巨額の税を免れていると疑っている。
    追い打ちをかけるように、2021年10月以来、匿名のウェブサイト「ドシエ・ドゥ・ロシェ(岩の文書=モナコは岩の上の国で、岩はモナコの別名)」が、大公に近い4人に関する多数の電子メールや請求書、口座明細を公開し、彼らを詐欺、縁故主義、汚職で非難し続けている。2022年2月、仏ル・モンド紙の2人の調査ジャーナリストに、大量の「岩」文書プリント入りのバッグが届き、情報は信頼できるとして、3月、同紙は調査結果を記事にした。
    こうしたモナコに対し、欧州評議会のマネーロンダリング防止機関「マネーバル」は、2023年1月、報告書の中で、「マネーロンダリングとテロ資金供与との闘い」に関して、対策強化を促した。モナコが、「トロイの木馬」、不正がEUへ侵入する「バックドア」にならないようにと、厳しい指摘。
    2023年7月、大公は仏フィガロ紙に、「ロシェ文書」の標的である自分の個人資産管理者クロード・パルメロ、首席補佐官ロラン・アンセルミ、幼なじみの顧問弁護士ティエリー・ラコスト、モナコ最高裁ディディエ・リノット長官の4人を解任したと発表。「信頼が崩れた以上、決断しなればなりません」。また、「実姉カロリーヌ(66歳)と妹ステファニー(58歳)両公女に相談。公国と無関係の独立した機関に監査を依頼し、「マネーバル」勧告に沿うべく、期限内にすべてを行うよう命じました」。リボロフレフについて、大公は、ASモナコ会長としてのウクライナ人道支援に感謝した。インタビューの終わりに、国際オリンピック委員会の委員そして元オリンピック選手として、来年のパリ・オリンピックへの出席を表明。
    67歳の公認会計士クロード・パルメロは、先代レーニエ大公の個人財産管理者から始め、公国と王室のあらゆる機密を扱ってきた。就任のきっかけは、自分の父親の死だった。父アンドレは、レーニエ大公の財産管理者のほか、モナコの収集切手委員長も兼ねていて、モナコ政府が大量発行した特別な価値のない切手シートを、フランスの消費者にプレミア付きで売らせ、国庫収入にした。大衆詐欺事件の捜査で、フランス側に逮捕者を出し、大公個人宛ての高額小切手の写しが押収され、アンドレも取調べを受けた。君主は刑事無答責だが、彼は心臓発作死した(享年68)。
    息子は、病死する様子はなく、アルベール大公に対し100万ユーロの不当解雇訴訟を提起している。これまで大公は、被害者然としてきたが、先代からの金庫番のもとから、リボロフレフ関係など、場合によっては退位に追い込まれるような何かが出るかもしれない。また、解任されたラコスト弁護士は、これまで大公の情事の後始末も一手に引受けてきた。側近達を追い払うのは、イソップの寓話の、「身を隠してくれたブドウの葉を食べて猟師に撃たれる鹿」とならないか。大公は、マクロン大統領と良好な関係にあるものの、なにがあっても、フランスはこれまでと同様、自国の都合に合わせて介入するだろう。
    モナコは、ニューヨークのセントラルパークよりも狭く、人口4万の華やかなタックスヘイブンで、不動産価格は世界最高。「岩の文書」の中身は、2025年完成予定の「マレテラ(海の大地)」拡張プロジェクトをめぐる、大公側近らの疑惑に関連している。海上の埋め立て地6ヘクタール、つまりモナコの表面積の3%拡張。高層ビル、邸宅、ショッピングエリア、新港、公共駐車場、公園、その他のインフラ整備。海流の流れを容易にするため湾曲した形状とし、海草の生育を助け、人工サンゴ礁を設ける。陸上の植樹、住宅や庭園には、ソーラーパネルの設置、電気自動車充電設備、散水システムなど。売値は、1平方メートルあたり10万ユーロ(1,500万円)超。
    2つの建設企業体が担当するが、問題は、モナコでトップの建設業者パトリス・パストールのグループが外されたことである。億万長者のパストールは、「モナコのもう一人の大公」と呼ばれる。父親はモナコ最大の開発業者だったが、大公や側近らと度々衝突。パトリスも、側近に対する敵意を隠さないが、事件との関連は否定している。
    アルベール大公(65歳)と、シャルレーヌ公妃(45歳)は、2011年7月に結婚。2014年12月に双子のジャック公子とガブリエラ公女(8歳)が誕生したが、シャルレーヌは、ひとりスイスで療養しており、公式行事に出席したことがニュースになるほどで、自身のSNSも閉じてしまった。
    1982年、大公の妹ステファニーは17歳のとき、交通事故に遭い、母親グレース・ケリーが亡くなった。車を運転していたのはステファニーだった、あるいは、二人が直前に口論していて、母は脳卒中が原因で車のコントロールを失った、と噂される。「ファイト・エイズ」モナコ財団を支援。
    姉カロリーヌは、イタリアの実業家でスポーツ選手のステファノ・カシラギとの再婚で、3人の子供アンドレア(39歳)、シャルロット(37歳)、ピエール(35歳)がいる。アンドレアとピエールは、先のパストール傘下で建設業も手がける。
    1990年、ステファノ・カシラギは、スピードボートレース事故により30歳で死去。その後、彼女は、ハノーバー王子エルンスト・アウグストと再々婚し、1女(ハノーバー王女アレクサンドラ24歳)をもうけたが、別居。夫は、息子が家族のマリエンブルク城(夏離宮。本拠ライネ城は、ハノーバー王が英国王となり留守で、早くに市へ譲渡)を1ユーロでドイツ政府に売却したとして、訴えを提起している。政府は、城の改修に巨額の支出を約束。
    グレース・ケリーが亡くなった後、当時25歳だったカロリーヌが、モナコのファーストレディとなる。カロリーヌは、弟アルベールが長い独身生活を送っているのを見て、自分が主権を持ち、長男アンドレアを世襲王子とする野心を抱いた。現在、シャルレーヌ公妃の不在が続く中、カロリーヌは再びファーストレディ然としてきた。多くの公式行事に、大公と姿を見せている。母親不在の双子も、伯母の傍らにいる。
    シャルレーヌの心身の問題は、大公の2人の婚外子に起因すると言われる。ジャズミン(31歳)は、休暇中の米国人ウェイトレスだったタマラ・ロトロ(62歳)との娘。アレクサンドル(20歳)は、トーゴ出身の元エールフランス客室乗務員ニコル・コスト(51歳)との間に生まれた。アルベール大公は、二人を認知している(遺産相続権あり・公位継承権なし)。
    シャルレーヌ公妃は、南ア代表のシドニー五輪競泳選手、アルベール大公は、冬期五輪5回出場のボブスレー選手と、どちらもオリンピアン。セーヌ川を泳ぐ選手達を応援するのだろう。

     


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