<2025.10.1寄稿>
寄稿者 K. Hayama
ある日のこと。中堅デベロッパーの仕入れ担当・石田係長(仮名)のボヤキを聞いた。
「いやぁ…民泊業者には二度と貸さん」
ことの始まりは、新築マンションを一棟、民泊を手がける会社に貸したことだった。電話一本で現れた営業マン山村(仮名)は、30代の軽快な男。
「民泊は得意っす!サブリース保証もバッチリっす!相場1万5千円? うちは1万6千円保証しますよ!」
営業トークは居酒屋の呼び込み並み。だが石田は警戒しつつも、上司に相談した。
すると上司はひと言、
「お、この会社スミフのビルに入ってるのか。名前も聞いたことあるし、まぁ大丈夫だろ」
——その“スミフ安心神話”が、後に石田の胃に穴を開けることになる。
結局「いつでも解約できるなら試してみよう」ということになり、普通借家契約で一棟貸し出し。しかも山村は即答で「6ヶ月前予告で解約もOKっす!」と胸を張った。上司も「念のため借地借家法に縛られないと書いてもらえ」と細かく指示し、契約書は一応整った。
——そして1年半後。
コロナ明けの留学ブームで賃料相場は爆上がり。坪1万8千〜2万円でも借り手がつく状況になった。
石田が試しに民泊の査定を取ると、状況は一変。
民泊バブルに乗り遅れまいと、レッドオーシャンのごとく新規参入業者が雨後の筍のように次々登場。
どの会社も口をそろえて「1万9千でも、2万円でも保証しますよ!」と景気のいいセリフを並べてきた。
ところが、肝心の山村に値上げを相談すると返事は冷ややか。
「上がっても10%の1万7,600円っすね。それ以上は無理っす」
報告を受けた上司は即断。
「よし、解約しろ!」
解約通知書も渡し、安心していた石田。ところが11月に明け渡し日を確認しようと山村の上司に電話すると、スピーカーの向こうから返ってきたのは予想外の声だった。
「解約? 初耳ですけど?」
石田、絶句。どうやら山村、会社に何も伝えていなかったらしい。
後日、先方の部長と役員がやって来て「解約には応じられません」とドヤ顔で宣告。
現在、石田は訴訟の真っ只中。山村の会社は「普通借家契約の解約条項? 一次貸しの合意もないし、借地借家法違反だから最初から無効っすよ」と開き直り。「山村って、会社の代表じゃないし、まぁ社員が勝手に言ったことだし」
石田の嘆きは続く。
「スミフのビルに入ってるから大丈夫だと思ったんですがね…」
——教訓。
民泊業者と契約するなら定期借家契約。それでも「38条書面がないから無効!」などと言い出しかねない。
彼らと付き合うときは、細心の注意と鉄壁の契約を。
「大手ビルに入ってる=安心」なんて神話は、もはや都市伝説。