【寄稿№87】 オペンホーセのマンションが売れる時代 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 【寄稿№87】 オペンホーセのマンションが売れる時代




    <2025.10.25寄稿>

    寄稿者  K. Hayama    


    私は1週間がむしゃらに働いて、週末はいつも自分のために夜更かしと決めている。

    まずは近所のコンビニに行って夜食を買い込むのが、ささやかな儀式だ。

    東新宿駅前のセブンは、外国人客が多い。店員もほぼ外国人。オーナー店長とは顔見知り。

    フィリピン出身のホセ君――日本語学校に通う10代のアルバイト――が、私がオーナーの知人と知ってて、いつものように明るく声をかけてくる。スペイン系の顔立ち。

    「葉山さん、また夜更かし? 仮想通貨でもやってるの?」

    彼はおどけた顔で言う。

    「オイラね、バイトで貯めたお金で2年前にビットコイン買ったんだよ。そしたら4倍になったよ。

    それを元手に日本の株を買ったら、今度は2倍。気づいたら300万円が10倍さ。日本はいい国だね」

    脳から口に直結しているようなおしゃべり。止まらない。

    「そ、そうなの? 10倍はすごいね、ホセ君。もうバイトしなくてもいいじゃん」

    驚いてみせると、彼は怪訝な顔で笑った。

    「オイラの仲間はみんなそうだぜ? 葉山さん、驚くことかい?」

    その無邪気さに、どこか眩しさを感じた。


    ---

    日曜日。

    家内を連れて、渋谷・宮益坂の分譲マンションのモデルルームを見に行った。

    開発は「オペンホーセ」――不動産転売の総元締のような会社。

    業界に「専任返し」という言葉まで流行らせた、勢いのある会社だ。

    今どき三つ揃えのスーツを着たメガネ課長が応対し、アンケートを書きながら調子よく会話が進む。(お前は正直不動産のミネルバの神木(ディーン・フジオカ)か!)

    予算の欄に「7,000万円」と記入した途端、ディーン・フジオカの伊達メガネが一瞬キラリと光った。

    「葉山さん、申し訳ないが、私はこのあと会議で……」

    ディーン・フジオカは席を立ち、代わって新入社員の板橋君が現れた。

    無駄に童顔で、デブマッチョな体格、サカゼンの4Lの吊るしのスーツが悲鳴を上げている。

    「初めまして! 日大ラグビー部出身、板橋でーす!新人っす!」

    「葉山さん、残念ですが、このマンションには7,000万で買える部屋はもうありません」

    その言葉の後、「どうします? モデル観ます? それともお帰りになります?」という沈黙。・・・「帰りますか?」(おいおい口に出てるよ。)

    接客ブースの奥のほうではメガネ課長が、既に別の客に笑顔を向けていた。

    一応モデルルームを見学したが、童顔デブマッチョは「ご自由に!」と言ってついてこなかった。販売センターを出ると、家内がつぶやいた。

    「失礼な会社ね」

    普段おとなしい彼女が、珍しく声を荒げた。

    心がない会社。きっと社員も長続きしないし、マンションも売れないだろう。

    そう思うことで、なぜか少しほっとする自分がいた。


    ---

    何ヶ月か後。

    私はまた、コンビニにいた。

    「葉山さん、今日もスムージーですか?」

    ホセ君が、いつもと同じ調子で話しかけてくる。

    だが、話の中身はまるで違っていた。

    「オイラ、株の儲けでドルとポンドを買ったんだけど、高市さんが総理になったおかげでね、ものすごく跳ねあがったよ。貯金が一億超えたよ。

    いま、セブにコンビニを出す準備してるんだ」

    私は笑ってスムージーを受け取った。

    スムージーのマシンには外国人観光客が並んでいた。行列がいつもより多い気がした。

    「ホセ君、出世したね」

    「うん、かけもちのバイトでオペンホーセの営業マニュアル読んだんだよ。『買わない客に時間をつかうな』ってタイパの話のやつね」

    オペンホーセの荒牧社長はすごいよ。朝礼とかマニュアルがね。

    ──なるほど、日本の未来は、既に売られていたのかもしれない。 


    ☆☆☆不動産会社の接客態度に憤りを覚えた時に読む社長のコラムは№71(袋地)☆☆☆


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