【寄稿№89】 標高1000メートル、86万円の誘惑 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 【寄稿№89】 標高1000メートル、86万円の誘惑




    <2026.1.29寄稿>

    寄稿者  K. Hayama  

    東急天城高原別荘地、丸野平別荘地。

    標高千メートルの山の中に広がる別荘地だ。

     

    YouTubeで「50万円の別荘を買って自分でリフォームする」動画を立て続けに見ていたら、だんだん自分にもできそうな気がしてきた。

    人間というのは、便利な生き物だ。

     

    「売ります・あげます」でおなじみのフリマアプリ、ジモティ。

    もしかしたら掘り出し物の別荘があるかもしれない——そう思って検索してみると、伊豆高原で「森の中のぽつんと一軒家、86万円」という物件が目に飛び込んできた。

     

    安い。

    いや、安すぎる。

     

    直感的に「あっ、これはすぐ売れる」と思った。

    なぜかよく分からない焦りに駆られ、「分からないなら分からないまま買ってしまってもいいのでは?」という、危険な思考が頭をもたげる。

     

    「私が買います」

    今すぐ連絡しそうになる。

     

    ——おいおい、落ち着け。落ち着け、俺。

     

    なんとか冷静さを取り戻し、まずは場所を教えてほしいと問い合わせてみた。

    すると驚くほど早いレスポンスで、Googleマップのリンクが送られてきた。

     

    週末は三連休。

    土曜日の朝から、家内と見学に行くことにした。

     

    伊豆高原という響きは、どこかオシャレだ。

    海があり、山があり、温泉があり、観光地も多い。

    週末が待ち遠しく、自然と気分が高揚してくる。

     

    東京から東名高速で厚木へ。

    箱根新道を抜け、伊豆スカイラインを走り、天城高原ICまで一気に進む。

    ナビでは2時間半だが、実際にはサービスエリアで「休憩」と称して食事をするため、3時間超のドライブになる。

     

    天城高原ICから、くねくねとした山道を登ること30分。

    別荘地の入口へ向かう途中、なんと路線バスとすれ違った。

    こんな山奥までバスが来るのか、と少し驚く。

     

    東急が管理する別荘地に入っても、さらに奥が深い。

    「八景台A・B」を抜け、一番奥の「丸野台」まで、体感で10分以上。

    正直、遠い。

     

    辿り着いた物件は、標高1000メートル、森の中の一軒家だった。

    好きな人にはたまらないだろう。

    だが、私たちには、鬱蒼とした森が暗く、少し寂しく感じられた。

     

    敷地は約690㎡。

    杉やヒノキが生い茂り、まさに“森”。

     

    悲観的にならないよう、メリットを考えてみる。

    広いのでバーベキューをしても誰にも怒られない。

    人目のない山側にバレルサウナを置くのもいい。

    先輩の会社のWebサイトに寄稿する原稿を、籠って書くには最高の環境だ。

     

    ……他には?

     

    次に、デメリット。

    まず駐車場。道路際に1台分あるが、ポルシェ・カイエンがギリギリ入らない。

    200坪もあるなら、せめて2台は停めたい。

    東急に頼めば駐車場の増設工事をしてくれるのだろうか。

     

    手入れされていない敷地には枯れ葉が積もり、アプローチの階段は埋もれている。

    朽ちたバルコニーは事前に写真で見ていたが、実物を前にすると「自分で直せる気がしない」。

     

    伊豆高原の麓にはカインズがある。

    だが、3時間かけて別荘に来てから、さらに片道40分の山道を往復して木材を買う——

    その自分の姿が、どうしても想像できない。

     

    結局、工事は業者頼みになるのだろう。

    もう少し近くて、もう少し若ければ……。

    86万円は安い。だが、安いだけでは済まない現実が見えてきた。

     

    管理は東急リゾーツ&ステイ。

    年間管理費は7万200円。これは悪くない。

    ただし温泉を引くとなると、権利金172万8千円。給湯期限は10年、更新料43.2万円。工事費は別途。

     

    前所有者が温泉権利を持っていれば名義書換で済むが、SUUMOなどで探す際は、この点を含めて総合的に判断する必要がある。

    それにしても、172万円は高い。

     

    天城高原別荘地の開発は1961年。

    65年前だ。

    当時の購入者は高齢化し、運転免許の返納を考える年齢。

    雨漏りや動物の侵入など、建物の修繕も難しくなっている。

    なにより駅から遠く、車がなければ来られない。

     

    正直に言えば、今どきの世代には需要の乏しい「過疎化エリア」だ。

    周辺相場は80万〜600万円。

    価格下落は止まらない。

     

    古い建物は外壁や屋根の修繕で大きな費用がかかる。

    それなら、400万円台でも住める建物の方がいい。

    地元不動産会社が消極的なのも、頷ける。

     

    若い頃なら「秘密基地」でワクワクしただろう。

    だが、この年になると、誰が住んでいたか分からない廃墟に、前オーナーの念すら感じてしまう。

     

    ——今回は、見送ることにした。

     

    陽も暮れ、本日のお宿は熱川オーシャンリゾート。

    標高1000メートルの別荘地内ではカーナビのGPSが反応しなかったが、スマホのGoogleマップは完璧だった。

     

    熱川までは40分。

    25年ぶりの訪問だ。

    2000年、「エリゼ熱川」の分譲を手伝い、モデルルームに通った記憶が蘇る。

     

    当時3000万円だったマンションは、今や600万円台。

    駅近で海が見えても、高い管理費と修繕積立金が足かせとなり、熱海や軽井沢のようには値上がりしていない。

     

    不動産にも、人生にも、時代の流れは確実にある。

    ☆☆☆テーマが近い社長のコラムはこちら→№211(掘り出し物こそご用心)☆☆☆


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