
<2026.1.29寄稿>
寄稿者 K. Hayama
東急天城高原別荘地、丸野平別荘地。
標高千メートルの山の中に広がる別荘地だ。
YouTubeで「50万円の別荘を買って自分でリフォームする」動画を立て続けに見ていたら、だんだん自分にもできそうな気がしてきた。
人間というのは、便利な生き物だ。
「売ります・あげます」でおなじみのフリマアプリ、ジモティ。
もしかしたら掘り出し物の別荘があるかもしれない——そう思って検索してみると、伊豆高原で「森の中のぽつんと一軒家、86万円」という物件が目に飛び込んできた。
安い。
いや、安すぎる。
直感的に「あっ、これはすぐ売れる」と思った。
なぜかよく分からない焦りに駆られ、「分からないなら分からないまま買ってしまってもいいのでは?」という、危険な思考が頭をもたげる。
「私が買います」
今すぐ連絡しそうになる。
——おいおい、落ち着け。落ち着け、俺。
なんとか冷静さを取り戻し、まずは場所を教えてほしいと問い合わせてみた。
すると驚くほど早いレスポンスで、Googleマップのリンクが送られてきた。
週末は三連休。
土曜日の朝から、家内と見学に行くことにした。
伊豆高原という響きは、どこかオシャレだ。
海があり、山があり、温泉があり、観光地も多い。
週末が待ち遠しく、自然と気分が高揚してくる。
東京から東名高速で厚木へ。
箱根新道を抜け、伊豆スカイラインを走り、天城高原ICまで一気に進む。
ナビでは2時間半だが、実際にはサービスエリアで「休憩」と称して食事をするため、3時間超のドライブになる。
天城高原ICから、くねくねとした山道を登ること30分。
別荘地の入口へ向かう途中、なんと路線バスとすれ違った。
こんな山奥までバスが来るのか、と少し驚く。
東急が管理する別荘地に入っても、さらに奥が深い。
「八景台A・B」を抜け、一番奥の「丸野台」まで、体感で10分以上。
正直、遠い。
辿り着いた物件は、標高1000メートル、森の中の一軒家だった。
好きな人にはたまらないだろう。
だが、私たちには、鬱蒼とした森が暗く、少し寂しく感じられた。
敷地は約690㎡。
杉やヒノキが生い茂り、まさに“森”。
悲観的にならないよう、メリットを考えてみる。
広いのでバーベキューをしても誰にも怒られない。
人目のない山側にバレルサウナを置くのもいい。
先輩の会社のWebサイトに寄稿する原稿を、籠って書くには最高の環境だ。
……他には?
次に、デメリット。
まず駐車場。道路際に1台分あるが、ポルシェ・カイエンがギリギリ入らない。
200坪もあるなら、せめて2台は停めたい。
東急に頼めば駐車場の増設工事をしてくれるのだろうか。
手入れされていない敷地には枯れ葉が積もり、アプローチの階段は埋もれている。
朽ちたバルコニーは事前に写真で見ていたが、実物を前にすると「自分で直せる気がしない」。
伊豆高原の麓にはカインズがある。
だが、3時間かけて別荘に来てから、さらに片道40分の山道を往復して木材を買う——
その自分の姿が、どうしても想像できない。
結局、工事は業者頼みになるのだろう。
もう少し近くて、もう少し若ければ……。
86万円は安い。だが、安いだけでは済まない現実が見えてきた。
管理は東急リゾーツ&ステイ。
年間管理費は7万200円。これは悪くない。
ただし温泉を引くとなると、権利金172万8千円。給湯期限は10年、更新料43.2万円。工事費は別途。
前所有者が温泉権利を持っていれば名義書換で済むが、SUUMOなどで探す際は、この点を含めて総合的に判断する必要がある。
それにしても、172万円は高い。
天城高原別荘地の開発は1961年。
65年前だ。
当時の購入者は高齢化し、運転免許の返納を考える年齢。
雨漏りや動物の侵入など、建物の修繕も難しくなっている。
なにより駅から遠く、車がなければ来られない。
正直に言えば、今どきの世代には需要の乏しい「過疎化エリア」だ。
周辺相場は80万〜600万円。
価格下落は止まらない。
古い建物は外壁や屋根の修繕で大きな費用がかかる。
それなら、400万円台でも住める建物の方がいい。
地元不動産会社が消極的なのも、頷ける。
若い頃なら「秘密基地」でワクワクしただろう。
だが、この年になると、誰が住んでいたか分からない廃墟に、前オーナーの念すら感じてしまう。
——今回は、見送ることにした。
陽も暮れ、本日のお宿は熱川オーシャンリゾート。
標高1000メートルの別荘地内ではカーナビのGPSが反応しなかったが、スマホのGoogleマップは完璧だった。
熱川までは40分。
25年ぶりの訪問だ。
2000年、「エリゼ熱川」の分譲を手伝い、モデルルームに通った記憶が蘇る。
当時3000万円だったマンションは、今や600万円台。
駅近で海が見えても、高い管理費と修繕積立金が足かせとなり、熱海や軽井沢のようには値上がりしていない。
不動産にも、人生にも、時代の流れは確実にある。
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