思うところ5.「歩留」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

TOPコラム一覧

  • 思うところ5.「歩留」




    <2017.11.21記>
    ある大手ディベロッパーが、江東区で超高層大規模タワーマンション800戸超を発売した時の新聞記事。「OO不動産、モデルルームへの来場者数1000組超、第1期100戸を即日完売!」
    この記事(少し古い記事、現在は終了案件)を見れば、不動産業に携わる人であっても販売は好調だと錯覚する。

    「不都合な真実」であるが、良い機会なので「歩留(ブドマリ)」というものを解説しよう。(学術的に掘り下げて解説すると長文になってしまうので要約する。)

    この「歩留」という言葉は、「何組集客して何組成約したか」を数値化して、販売計画が健全であるかを分析するものである。よって、不動産業界にあっても新築販売部門の管理職、または販売計画立案者等ごく限られた者が使う言葉である。(仲介部門は「歩留」という概念そのものがない結果至上主義である。)

    数式はごく簡単(成約戸数÷集客数)で、1000組の来場があって100戸成約したならば、成約歩留10%である。私の肌感覚で言うと、歩留10%が丁度適正。歩留15%以上は大人気物件(優れた商品企画・得難い好立地・格安値付等)、歩留8%以下なら不人気物件(魅力の無い商品企画・高値付で失敗等)歩留3%なら1000組の集客があっても30戸しか売れないのだから、販売計画を一から見直した方が良い。

    お気付きだろうか。冒頭の記事はごく当り前のことを好調であるかのように「雰囲気」を醸し出したに過ぎない。むしろ、1年で完売したいという全体計画であれば、販売後半は集客が細っていくので、(販売総戸数を考慮すると)集客も成約も足りない。(おそらく2ヶ年計画+竣工後残戸処理といったところか。)どうしても「即日完売」と謳いたかったから、集客見込から即日完売できる戸数を割り出したのだ。

    だが、この程度の表現に目くじらを立ててはいけない。(何ら嘘は無いのだから)
    新築販売は、「お祭り」みたいなものだから「お囃子(おはやし)」も必要なのだろう。

    大規模分譲で「好評につき第O期第O次新発売」などというフレーズも売り手側の苦肉の策。第10期など二桁の期分けでは、販売苦戦が明らかになってしまう(苦戦していなくても誤解を招く)ので、まず3期程度に大きく分けてから完売できる戸数を第O次というふうに小分けにするのだ。すると「新発売」と「即日完売」のフレーズが連発でき、お客様の購入意欲が刺激される。行間を読み解けば、実に「人間臭い」心理戦なのだ。(勿論、契約事務処理能力の限界や接客要員不足との見方も間違ったものではない。また、販売スタッフは本当にそう思っている。)

    営業マンの歩留は、接客数が分母、成約件数が分子で同じ考え方。
    同じ新築物件であっても、接客するお客様の購入意欲に差があるので、あまり厳しくトレース(=追及)すべきではないが、長期に渡る販売活動の中では、数字とは正直なもので、全スタッフの平均歩留が10%なら、優秀な営業マンは12%を超え、営業不得手の者は、歩留8%程度まで低下していく。同じ物件なのに実に不思議なものである。

    もっとも、世の中は常に変化しているので「売り方」も、「売れ方」も変化していくだろう。最近は、興味本位の参考見学を排除してモデルルームの「見学予約制」も多い。
    少ない集客であっても真剣に購入を検討しているお客様のみを対象にすれば自ずと「歩留」は上昇するだろう。多種多様な販売方法があって良い。

    さはさりながら、AI(artfical intelligence=人工知能)が商品企画から販売計画まで立案し、熟練の営業マンがAIに改善点を指導されるなどという「無味無臭」の未来を私は望まない。人間臭くて良いのだ。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。

茅場町・八丁堀の貸事務所・オフィス, 中央区の売買物件検索
PAGETOP