思うところ118.「消費税(後編)」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ118.「消費税(後編)」




    <2022.2.7記>
    あくまでも個人的見解ではあるが・・・。

    前回のコラム№117で所有不動産を事業用(事務所・店舗等)として貸出している免税事業者(1年間の課税売上高が1,000万円未満の事業者)に2023年3月31日(令和5年3月31日)までに「適格請求書発行事業者」の登録申請(以下「事業者登録」)をして2023年10月1日(令和5年10月1日)より導入されるインボイス制度(適格請求書等保存方式:要件を満たした請求書や納品書を交付・保存する制度)に備えるよう早めに提言しようと考えていることを述べた。今回のコラムでは別の視点でその理由について補足説明したい。

    話を創作して説明しよう。あるご老人(以下「Aさん」)が投資ワンルームを所有していた、とする。会社員時代に副業として始めた投資(賃貸事業)であったが、定年退職を迎える頃には購入資金の借入れも完済し、その賃料を小遣いにして悠々自適の生活を送っていた、としよう。借主(入居者)は、消費税が3%だった時代(昭和63年12月30日消費税法施行、平成元年4月1日から適用)から今日に至るまで事務所として使用する個人(課税事業者)だった、とする。賃貸借契約の借主名義が個人であっても用途が事務所であるから賃料に消費税が掛かる。ところが、免税事業者のAさんが悠々自適である余り、消費税にも賃料相場にも無頓着であって平成9年に5%、平成26年に8%と段階的に引き上げられ、ついに平成31年10月に10%(飲食料品等は軽減税率8%適用)となった今でも原契約の月額賃料70,000円(税込)のままだとしたらどうなるか。

    課税事業者の立場から見た賃料本体(税抜)は、消費税率が3%の時は67,962円、5%の時は66,667円、8%の時は64,815円、10%の今に至っては63,634円!つまり、Aさんは、知らず知らずの内に消費税率が見直される度に賃料を値下げしていたことになってしまうのである。

    ある時、Aさんが介護施設への入所費用を準備しておこうと思いつき、その不動産を所謂「オーナーチェンジ物件」として売却しようとした、としよう。経年劣化を加味した(投資家が食指を動かすと思われる)必要利回りを仮に5%の物件だったとする。その時70,000円が税抜賃料なら妥当価格は年間賃料(70,000円×12ヶ月)÷0.05(必要利回り)=1,680万円である。ところが、税込賃料なら年間賃料(63,634円×12ヶ月)÷0.05(必要利回り)≒1527万円になってしまう。Aさんは、自身が免税事業者であったが為に消費税に無関心であり、70,000円(税込)を据え置き続けたことが原因で収益還元法による価格査定上は差額153万円の損をしかねない事態にあるということだ。よって、老後の余裕資金として少しでも良い条件で売却したいAさんは、今までの杜撰な賃貸借契約更新のあり方を深く反省することになる。

    「だったら、Aさんと同じ免税事業者に売却すればいいじゃないか!」という意見もあるだろう。だが、冷静に考えて欲しい。良い条件で買ってくれる投資家は富裕層である。富裕層は年間の課税売上高が1,000万円以上ある課税事業者である可能性が高い。また、免税事業者であってもその取引先には課税事業者がいるだろうから取引を継続して貰うべくインボイス制度を機に事業者登録する可能性も高い。(免税事業者の入居者も同様の理由で事業者登録する可能性がある。)免税事業者だけで完結できる経済活動など非現実的なのである。(だから、前編で実質「逃げ道が無い」と述べた。)また、免税事業者のAさんが長年に渡り割安賃料で据え置いた賃料設定を新所有が課税事業者だからと言って、ある日突然10%の値上げ交渉が簡単に纏まるだろうか・・・。(いや、間違いなく賃貸管理会社は貸主と借主との板挟みの憂き目に遭う。)

    購入検討者が免税事業者だったとしても自分が売却する時のことを考えれば、図らずも割安賃料設定になってしまった賃貸借契約を引き継ぎ、値上げ交渉の重圧を背負ってまで好条件で購入してくれるとは思えない。また、免税事業者のままなら10%高く貸すことができると考える人もいると思うが、将来売却する時に前述と逆のことが起こる。(課税事業者が購入すると10%の消費税を加算して請求→割高賃料→借主憤慨→借主退去)

    この消費税問題を回避できる現実的な方法は、保有資産を居住用賃貸物件のみに統一することだ。だが、事務所に適する物件を居住用に限定して募集することは得策とは思えない。また、事業用賃貸物件と居住用賃貸物件を(リスク分散の為に、)バランス良く保有することを推奨している。

    Aさんが売却を一旦中止するなら、「適格請求書発行事業者」の登録申請をした方が良い。その上で「貰い得」ではないのだから胸を張って相場に即した月額賃料77,000円(税込)への賃料見直し交渉をすべきと思う。投資家が重視する「収益還元法」による価格査定に照らせば、売却可能価格は上方修正(適正な賃貸借内容なら、適正な価格に修正)できるはずである。

    免税事業者の貰い得(免税)とそのモラトリアム(猶予期間)、更に軽減税率の適用で税制を複雑なものにしてしまった国側、それを強く望んだ国民の双方に問題があると思う。だから問題点を今一度見つめ直し、事業用賃貸不動産を所有する人は、その資産価値を維持する為にもインボイス制度を機に適正なる賃料に消費税を加算して預かり、そもそも預かった税金(損する訳ではない)なのだから当然に納付すべきと考え直して欲しい。

    世界的にも比類無き少子高齢化が進む我が国にあって、現役世代(特に給与所得者)の重税感や不公平感を払拭し、高福祉(かつては、細川政権下「国民福祉税」構想があった。)を目指すならば、(私自身も個人的には恨めしくもあり、苦々しく思うことも度々あるが、)できる限り幅広く公平に税負担を分かち合うことは間違ったものではないと思う。性悪説を持って注視すべきはその「使い途」の方である。頑張った人や能力ある人が正当に報われ、苦しんでいる弱者に救いの手が差し伸べられる、消費税がそういう成熟した社会の財源となることを願っている。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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