思うところ130.「定借マンション」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ130.「定借マンション」




    <2022.9.1記>
    コラム56(定借)で取り上げた「定借」とは、2000年(平成12年)3月施行の「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」の中に導入されて誕生した「定期借家権」のこと、この度取り上げる「定借」は、1992年8月施行の借地借家法に規定される借地権の一種で「定期借地権」のことである。随分前から分譲マンションの行く末(建替問題)を憂いていた私にとって思い描いていた通りの画期的な法改正となっている。だが、将来的な建替問題が新築当初から完全に払拭できるのと引換えにその代償としての弱点もあるのだから、所有権価格と比較しての廉価(安価)礼賛一辺倒の風潮には一石投じておきたいと思う。

    「定期借地権」の種類は3つ、①一般定期借地権、②事業用借地権、③建物譲渡特約付借地権である。この中で定期借地権付マンション(以下「定借マンション」)は、「一般定期借地権」が用いられることが殆どである。(通称「つくば方式」と言われる建物譲渡特約付借地権の分譲もあるにはある。)権利の存続期間は50年以上(マンション毎に期間の定めは異なる)と長期であるが契約期間の延長は無い。其処に大きなメリットとデメリットが混在する。それを十分理解した上で自身の住宅ニーズに見合うのならば、取得困難な得がたい好立地にゆとりの面積でありながら格安の住まいを手にすることができる。逆に本質を理解もせずに盲目的に廉価に飛びつくものなら後悔することになりかねない。

    まずメリットを整理しよう。一番のメリットは冒頭で申し上げた通り、同じ分譲マンションでも敷地権が所有権(物権)と比べれば、支配力の弱い借地権(債権)であるうえに期間の延長が無いからこそ安い(廉価)ということ。本来はエリア的に予算超過の購入層にとって、それが定期借地権付の建物であったとしても、敷地権が所有権の建物と住み心地が何ら変わらない快適な住まいを格安で取得できる。(同エリア・同程度の設備・仕様でも分譲時点で3割程度の割安感があるはずである。)また、地主が手放さないような得がたい立地に供給されることも多いし、(土地は地主のものだから、)土地に対する不動産取得税・固定資産税・都市計画税の負担がない。そして将来的にも建替に関する紛争が起こりえない、ということである。「遺す」ことより「住まう」ことに主眼を置くならば、とても合理的な商品企画なのである。

    デメリットはどうか。一番のデメリットは、借地期限が到来したら、更地にして土地を所有者に返還しなければならないことである。永住志向ならば、若年層でさえ「長生きリスク」を背負うことになりかねないし、相続評価が低い割に権利が比較的強固な旧法借地権マンションとは対照的に次世代に遺す資産としては適性に欠ける。また、土地に対する固定資産税・都市計画税の負担の無い反面、地主に地代を払わねばならない。その地代も地価相場や固定資産評価額の見直しにより変動リスクもある。物件価格が安い反面、建物解体工事に要する事前積立一時金や毎月払いの積立金があったりする。売却時に地主の承諾料(名義書換料)の支払義務があるのかも確認しておいた方が良いだろう。その様な事情もあって担保力が脆弱である為、金融機関によっては住宅融資貸付けに難色を示すこともある。

    この度のコラムでが最も申し上げたいのは、借地の残存期間が短くなるに従って流動性比率が低下する(=売れ難くなる)ということである。商品企画としての歴史が浅いために中古市場の不透明感は拭えないが都心部の不動産価格が高騰している現時点では定借マンションも連動して「値上り」しているのは事実である。ところが、定借マンションの資産価値が長い時間を掛けて緩やかに0に向かって進行していることも目を背けてはならぬ事実である。

    不動産業界人として提言する。定借マンションの残存期間が30年を割ったあたりからの価格査定は、近隣マンションとの比較事例法を採用しない方が良い。資産価値の根拠は残存期間を定期借家契約で貸出した時に得られる家賃の総額に流動性比率(売り易さ・売れ難くさ)を掛け合わせたものが指標になると予想している。(本来は「家賃の騰落率・空室率・改良費」も考慮すべき。当て嵌めるべき流動性比率はそれらを加味して個別判断)例えば、残存期間20年で家賃相場が月額30万円のマンションなら、20(年)×12(ヶ月)×30(万円)×(想定流動性比率)0.8程度=5,760万円が指標、その後は流動性比率も更に低下するから残存期間10年なら10(年)×12(ヶ月)×30(万円)×(想定流動性比率)0.7程度=2,520万円、といったふうに。その後加速度的に流動性比率は低下の一途を辿り、残存期間2年を割ると流動性比率は0に近くなるだろう。その時は売却を諦めて最後まで自己使用した方が得策かもしれない。要するに、株式投資の世界に喩えるならば流動性比率は恐怖指数のようなものであり、建物解体工事着手は上場廃止のようなものである。

    よって、定借マンションの査定方法は、建物取壊しに現実味を帯びる始める一定の時期から、似て非なるもの(近隣所有権区分マンション)との比較事例を改めるべきであり、新たなる収益還元法的な考察に基づき、「残存期間(月数)×月額家賃相場×流動性比率」を指標とする公式が成立し得るのではないかと思う。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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