思うところ146.「二刀流」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ146.「二刀流」





    <2023.5.2記>
    大谷翔平選手の「二刀流」を世界中の野球ファンが賞賛している。彼は「賞賛されている」というよりも「愛されている」と言った方が的確な表現かもしれない。彼が多くの人に愛されるのは、少年のような純粋さをもって野球を楽しんでいるように見えるからではないだろうか。職業野球の常識を超越したエースで四番(級)の大活躍は少年漫画さながらだ。敵陣でさえ尊敬の眼差しで見ている。対戦投手が彼に際どい危険球を投げようものなら球場全体がブーイングの嵐だ。「日本の宝」のレベルでは無く、もはや「野球界の宝」、「世界の宝」になったということなのだろう。

    近年の職業野球は過度に分業化されて面白さが半減しているように思う。確かに選手の故障を防ぎ、ポスト(役割・働き口)を増やし、勝利を最優先にするならば、徹底的な分業が正しいのかもしれない。しかしながら、それはアダム・スミス(イギリスの経済学者、「国富論」著者)流の経済学上の話であって、大谷選手の二刀流の実践は、ファンの真に望むものが単なる勝敗ではないことを実証している。「ナオエ(大谷選手は大活躍、なお、エンジェルスは敗れた。)」の結果であっても、その興奮は冷めやらぬものであり、ベーブルース(MLBにて打者として通算714本塁打、投手として94勝)以来のスーパースターの出現に拍手喝采をしているのである。

    野球界同様に我々不動産業界も過度に分業が進みつつある。多能工を自負する当社とは対照的に大企業ほど分業が進む傾向は顕著だ。広告は広告宣伝係、契約は契約事務課、住宅融資はローン事務部、クレーム対応は顧客相談窓口といったように業務の細分化が進み、自分の頭で戦略を練って商談を纏め、営業担当自らが重要事項説明書と契約書を作成し、契約・決済後の問題解決にあたることは少なくなっている。大企業は、「個」の力に頼らない持続可能な組織作りができた結果、どんなに離職率が高くても人材の補完が容易になり、社員にとっても個々の負担が軽減されて休日が確保し易く、時短や在宅勤務も可能となった。よって、表面的には労使双方の利益でもあり、アナリストの視点ならそういった経営を高く評価できる。

    本当にそれで良いのか?私は次世代の「個」の力の弱体化を心配している。業務の全体像が見えにくくなり、スペシャリストと呼べば聞こえは良いが、機械部品のように交換可能なパーツに成り下がったと考えれば、「使い捨て」になる恐れがあると思う。容易に交代可能な業務に従事しているのならば、「楽」を喜ぶのでは無く、むしろ「己の価値の低下」に危機感を持つべきではないだろうか。業種によっては、後輩はおろか、AI(artfical intelligence=人工知能)に仕事が奪われる予兆とも受け取れるからだ。

    誰にもできないことだからこそ価値がある。今から5年前、2018年(平成30年)2月に書いたコラム(№20「適性」)の中でオールラウンダーと言えばイチロー選手(MLBシーズン最多安打記録保持者にして通算安打世界記録保持者)だった。彼は走・攻・守が完全に揃っていた。残念ながら我々はイチロー選手や大谷選手にはなれない。だが、認めざるを得ない身体能力の違いからスポーツ界では挑戦叶わぬとも、仕事面で多方面に挑戦することは可能だと思う。

    私が同業者に「不動産業者としての究極の生き残りの方法は何か」を問われた時、次の様に端的に答えている。「誰にもできないことをやる」又は、「誰もがやりたくないことをやる」そのどちらかだと。意味無く仕事の量や速度を倍にしてもお客様との歩調を乱して迷惑を掛けるか健康を害して自滅するだけだと思うし、(簡単を理由に)誰にでもできること、(簡単を理由に)誰もがやりたいことに漫然としがみつくことは、その人、その事業を危うくすると思うからである。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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