<2025.6.2記>
当社が入る岩崎ビル(所在:日本橋茅場町1-11-6)の共用部(通路・共用トイレ)の照明につき、LED照明への交換工事が先々月(4月)をもって無事完了した。当ビルの専有部(貸室部分)は随分前からLED照明に交換済であったが共用部に関しては昔ながらの蛍光灯のままであった為、本体(特に安定器=電流を一定の値に安定させる装置)の劣化が進むにつれて蛍光灯を新品に交換してもすぐには点灯しなかったり、チカチカと点滅し始めたりする不具合も多発しており、そんな薄暗い通路では来訪者に悪い印象を持たれるに違いないと皆が気を揉んでいた。それに当社は当ビルの賃貸管理会社でもあるから他のテナントからの苦情も寄せられる。共用部の蛍光灯からLED照明への交換は当社を含む全テナントが待ち望んでいた改良工事だった。
既に水銀汚染防止法により2018年に一部の蛍光灯が、2020年には水銀灯の製造と輸出入が規制されている。どのみち2027年までには蛍光灯の製造と輸出入が全面的に禁止される。貸主の金銭的負担を思えば心苦しい限りだが、所謂「2027年問題」と呼ばれる待った無しの是正義務であることを意識せざるを得ない時期となった。言うまでも無く、CO2排気量を削減して地球温暖化を防止、併せて有毒物質である水銀の汚染防止を目的とする崇高な理念に基づく国際的な公約である。人体への毒性が判明していながら製造・販売中止に時間が掛かり過ぎた石綿問題の反省を踏まえると、もう少し前倒しの政策実現を図っても良かったのではないかと思う。時には批判を恐れずに痛みを伴う改革や改善も必要なことである。
辛口の所見になるがLED照明化(蛍光灯廃止)には「まだ2年も猶予がある」と楽観視をしない方が良い。むしろ、「もう2年しかない」と悲観的に考えるべきだ。なぜなら、LED照明への交換の駆け込み工事が期限間際に集中すれば商品の需要と供給のバランスが一時的に崩れて値上げと品不足、それに加えて工事請負業者が見つからないという三重苦の憂き目に遭うかもしれないからだ。需要と供給のアンバランスの怖さはこの度の極度の米不足・高値問題で思い知らされたことと思う。この米騒動は農政の失策と流通のあり方の問題によるところが大きいと思うが農業の担い手不足もその遠因になっていると考えられる。同じように電気工事の有資格者の人手不足が懸念される建築業界である。老婆心ながら、一定規模の不動産を保有する貸主の立場にあって照明の保守義務ある「設備」として貸し出している皆様にはこの問題を先送りすることなく早めの改良工事実施をお勧めする。
実のところLED照明化を長い目で見れば改良後のコスパ(cost performance)にはとても優れた面が多い。確かに商品価格だけで比べれば割高のLED照明であり交換工事代も掛かるが、その代わり電気代が大幅に節約できるし、寿命が長いからメンテナンスに関しては殆ど手間いらずである。具体的に言うとLED照明の消費電力は白熱球やハロゲンランプ対比で約6分の1、水銀灯対比で約5分の1、蛍光灯対比でも約2分の1に消費電力を抑えることができる。蛍光灯の寿命は平均6,000~12,000時間(使用方法や環境で寿命は異なる。)であるから、1日平均8時間点灯させても寿命は約2年~4年程度と今までは照明器具の中でも最も長持ちの部類だった。その蛍光灯と比較してさえも発光ダイオードが消耗しないLED照明は約4倍(白熱電球対比なら約40倍!)という驚異的な長寿(約40,000時間点灯)を誇る画期的な発明品である。つまり、普通に使っていれば10年位は照明器具交換が不要ということだ。因みに当社が入る岩崎ビルの通路と共用トイレのLED照明は人感センサー付き(通路の照度を普段は必要最低限にしておいて人を感知すると照度100%にUP、トイレの照明は人を感知して点灯後2分で消灯設定)と創意工夫してあるので更なる省エネ・長寿が期待できる。
さて、ある借主からの要望事項(事務所天井のLED照明の交換)を貸主に取り次いだところ、「それって貸主負担が当り前なの?」という趣旨の質問をされた。貸室内の照明器具が賃貸借契約上「設備」の扱いであれば貸主負担であることは致し方ないと思うのだが、貸主が旧貸主(従前の所有者)から引き継いだ保管書類(旧貸主と借主間で30年以上前に交わされた原契約)を読み返してみたところ、実に曖昧な表現で「照明の維持管理は借主の負担」と明記されていた。おそらくは蛍光灯(ライトバー)や点灯管(グローランプ)の交換等を指しての文言だと思われる。我々が貸主に忖度するあまりその文言を強引に拡大解釈すれば貸主・借主間で紛争に発展しかねない。だが、当時の不動産賃貸取引はLED照明の義務化のことなど想定されていないのである。貸主が抱く疑問や不満も分からぬでもない。
コラム№49でA工事(貸主負担・貸主指定施工)・B工事(借主負担・貸主指定施工)・C工事(借主負担・借主指定施工)といった業界用語があることを紹介した。果たして本コラムで取り上げたLED照明への改良工事をA工事だと一方的に決め付けてしまって良いのだろうか。蛍光灯が必ずしも使えないわけではない現時点においては「借主の要望」で貸室内の改良工事の前倒しを貸主にお願いする時は特例的にA工事とB工事の中間型(折衷案)があっても良いと思う。蛍光灯廃止の方向性が明確となったのは「水銀に関する水俣条約」が採択された2013年10月である。それ以前に締結された賃貸借契約(店舗等のスケルトン渡しの貸室を除く)における設備の取り決めが曖昧でお困りなら、今こそ貸主・借主が信義誠実を重んじつつ、腹を割って建設的に話し合ってみては如何だろうか。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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