思うところ16.「睨む」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ16.「睨む」




    バブルが崩壊し始めた平成一桁の頃、当事者を除いて誰もいない事務所で「それ」について部下Aが上司Bを睨み、上司B(以下「B」敬称略)は縮こまって部下のように睨まれていた。そう、その非常識で気の強い部下Aというのは会社員として駆け出しの頃のである。

    その頃、私はBの50億円を超える大型案件をサポートしていた。相模川に近接するその広大な研究施設は、ある大手企業が物流センター用地として購入することになっていた。売買対象は「工場財団目録」だから、通常の不動産取引と少々異なり会社売買に近い。(「国土法」の届出義務にも抵触しなかったと記憶している。)駆け出しの若造にその様な大型案件を手伝わせてくれるだけでも嬉しかった。

    決済日直前、Bから「引渡日が近いから現地(の状態)を視察してくれ」との指示があった。きっとBは「それ」が気になっていたのだろう。建物内に入ると元研究施設だけあって薬品の匂いが鼻を突く。試験管等の実験器具が転がって放置されたままだったが、取引の規模からすると目くじらを立てる程の事ではない。建物はどのみち取り壊されることから、屋外の視察を重視することにした。屋外には、巨大貯水槽(ダイビングの練習用プールみたいなもの、水深は5m以上と推定)が幾つかあって水槽内には正体不明かつ大量のヘドロが貯蔵されていた。そういえば、契約条項には「現況空家渡し」の主旨は明記されていたが、この大量の「ヘドロ」の処理について取り決めは無かったことを思い出した。(当時の私に契約条項の不備を指摘するほどの権限も経験も無かった。)貯水槽に近づくと異臭は想定内だが、何らかの機械音がする。通電もされてないのに、だ。

    その巨大貯水槽から伸びる極太のホースを500m程辿ってその口から相模川に放流(バキューム方法の詳細は記憶にない。)されるヘドロを見て私は全てを理解した。「それ」は産業廃棄物の悪質な「不法投棄」だ。周辺には、民家も無いから一晩掛けてヘドロを相模川に放流するつもりだ。きっと近くに産廃業者が待機していたことだろう。私は直ぐにBに状況報告して「とにかくヘドロ放流を中止させて欲しい。大変なことになります。」電話口の反応(動揺)に私は「それ」がBの指示であることを確信した。まさか駆け出しの若造が噛みついてくるとは思わなかったことだろう。

    そして冒頭のシーンとなる。一部推測も交えて真相はこうだ。建物の引渡日が近くなって「ヘドロ」処理に対する売主・買主の認識の違いが露呈する。売主は「現状のまま」売り渡したと思っている。買主は「ヘドロ」まで買ったつもりはない。(契約条項が曖昧であるとこの様なことが時々起こる。)自分の不手際を隠したいBは仲介会社がその廃棄を負担することを提案した。手数料の大きさを考えれば小さな負担である。だが、自分の会社には報告できない。そこで仲介に5社も入っていることを利用してブローカー達(コラム3「あんこ」参照)に費用負担を押し付けた。だが、費用負担を押し付けられたブローカー達は、自分達の手取りを少しでも減らしたくない。そこで売主も買主も知らないところで「不法投棄」が画策されることになったのだ。

    「今ここで、私の目の前で作業を中止させて下さい。そうでなければ、本件を○○部長(上席役員)に報告します。」長い睨み合いの末、根負けしたBは渋々ブローカー達の元締めに電話を掛けた。「うちの若いのがうるさくってね。あれ(不法投棄)、やめよう。」

    翌日、翌々日、私は新聞を隅々まで読んで胸をなでおろした。なぜなら最悪の事態としては「相模川で魚が原因不明の大量!」の大見出しを想像していたからだ。

    その後のBとの人間関係は心配ご無用、「誠」は通じるものだ。私のことはいつも会議で褒めていてくれていたらしい。歳が20以上離れてはいたが、仕事を離れると麻雀仲間でもあった。今はもう亡き人である。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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