
<2026.8.17記>
前回のコラムで事業用の賃貸不動産(オフィス、店舗等)の商談においては貸主側が正式回答(入居受入れの可否)を出すまでに時間が掛かり過ぎる傾向がある、先ず理解すべきは貸主が覚悟しなければならない借主との付き合いの長さであり、長い付き合いとなる故に貸主の長考も致し方ない面があるのだと解説した。ところが実際の取引では借主も仲介人も困惑せざるを得ないあまりにも長い貸主の態度保留もある。
随分昔の話になるが小規模なオフィスビル1階の狭小店舗の入居審査に申込後2ヶ月もの時間を要した。その間、貸主と借主の板挟みとなる仲介人は苦しい立場とならざるを得なかった。貸主(担当者)は「結論を急かすならキャンセルして貰っても構わない。」と本気でそう宣う。借主は「いくら何でも待たせ過ぎだ!無回答では事業計画が立てられない。」と苛立ちを隠さない。(コラム№203「温度差」参照)苦境に立たされても諦めない営業マンの熱意は評価すべきだったが進捗状況の報告を受ける度に「その物件に執着せずに借主の方から毅然と申込を撤回(商談の発展的解消)をした方がお互いの為になるのではないか?」と思わずにいられなかった。そんな私の無頓着な営業姿勢は業界内ではかなり少数派だ。成功報酬型の仲介業務においては何としても成約に持ち込もうとする飽く無き執念こそを高く評価し、営業魂や根性みたいなものを賞賛する経営者が未だに多い。
幸いにもその案件は成約できたのだがそれでも私の胸中釈然としない気持ちが残った。もし、その無回答(態度保留)の期間に貸主にとってより好ましい借主が現れたらビジネスライクにそちらの商談を優先したに違いないからである。借主側が二股三股の申込をするのと同じ理屈の逆バージョンだ。(コラム№181「二股・三股」参照)もしそういう事ならば徒に結論を先延ばしするのではなく、「○月○日迄により良い商談がればそちらを優先させて貰う、無ければ本申込を応諾するつもりだ。」くらいの具体的なありのままの回答をして欲しかった。長いこと結果を待たされるにしてもその方が借主も納得できたと思う。
いつまで経っても貸主の結論が出ないのには大きな組織であることにも原因があった。旧態依然とした大企業にありがちな中間管理職の多いピラミッド型の大きな組織ではどうしても決裁に時間が掛かる。決裁権者が多ければ上席の多忙や出張等による不在というだけで稟議は都度滞ってしまうのだ。当該貸主の保有資産としては例外的とも言える小規模ビルの小さな店舗の入居審査だったにも拘らず、その他の大型商業施設の入居審査と同じ手順で審査すれば時間が掛かるのは当然だった。信用調査(外注?)などは大型案件と一線を画して簡略化、現場責任者に権限を委譲すべき案件だったように思う。因みに大型商業施設の入居審査は財務的な信用力のみならず、ブランド力や集客力の重視、施設内で競合しかねない同業種の排除等、綿密・高度な経営戦略が必要であるから思いの外審査に時間が掛かる。それならば審査に長い時間が掛かろうとも致し方ないと思う。
では、小さな組織で決裁権者が一人なら即断即決が期待できるかと言うとそうでもない。当エリア(東京都中央区)の貸主(特に個人)はとてもマイペースな人が多い。過去の賃貸借契約の紛争で苦い経験をして疑心暗鬼になっている貸主はどうしても保守的(入居審査に慎重)な判断をするし、不動産を多数保有、財務的に余裕のある富裕層(資産家)は空室期間が長引いても困らないから焦る必要など無く、従って借主の都合に合わせる必要も無いから大型連休・夏季休暇・年末年始休暇は元より私用の方を優先しがちである。少しでも早い結論を求める我々(仲介人)とは悪気も無く時間の感覚が異なっているように思う。
当社は仲介業務に注力しつつも自らを貸主とする賃貸物件もそれなりの数を抱える。お約束しよう、当社貸主物件に入居申込を頂戴した暁には決裁権者たる私が即断即決を心掛けることを。お約束しよう、万が一、態度を保留するときは理由を示して誠意ある説明責任を果たすことを。その審査結果が可であれ否であれ、できる限りの早期回答を以て礼を尽すことは貸主・借主互いの利益になるものと信じている。

このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。
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