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  • 思うところ94.「路面店」





    <2021.2.15記>
    視認性・繁華性に優れた目抜き通り(メインストリート)の1階店舗(以下「路面店」)が資産価値大であることに疑いの余地は無いだろう。当社の営業注力エリア(東京都中央区周辺)では、オフィス賃料を100とした場合、「路面店」の用途が営業所・物販店・軽飲食(カフェ等の軽飲食店等)であれば150以上、重飲食(飲酒&深夜営業可能な居酒屋・焼肉・ラーメン店等)なら、200以上となることも多い。階数で賃料格差が殆ど生まれないオフィスと違って、「路面店」は独自の賃料設定が許される「希少部位」、マグロで言うところの「大トロ」とも称すべき特殊な部位であり、貸主が多少割高な賃料を要求したとしても、借主が思わず食指を動かしてしまうだけの経営上の「旨味(魅力)」があるのだ。住居系の不動産で最も高く評価される「最上階&東南の角部屋」よりも希少価値があると言っても良いだろう。

    しかしながら、「コロナ禍」の影響で「路面店」と謂えども、成約率の雲行きが少し怪しい。なぜなら、「密」に集うことが非難の的になるとしたら、飲食店の売上げを飛躍的に伸ばせる大人数の「宴」ができないし、満席にすること自体が許されぬまま営業時間の短縮が求められるなら、「回転率(1日の来客数÷客席数)」も大きく狂う。かといって「客単価」を上げようとすれば集客が細るし、「原価率」を下げようと食材の質を落としたり、必要な人員まで削減したりすれば、途端に「悪評」が立つだろう。インターネットでその「悪評」が拡散されるような事態になれば、再起不能の店になりかねない。物販店舗でも似たようなものだ。繁華街の人通りが無くなれば連鎖して売上げも落ちる。何とも困ったご時世である。

    私見だが、店舗の賃料設定は、「売上(とその利益率)から導くべき」だと思っている。昔ながらの「比較事例法(近隣店舗の成約事例との比較)」を用いて妥当な賃料の仮説を立てるのは間違いでは無いが、候補となる借主(業種)を想定して持続可能な賃料設定であるかを「検証」すべきだと思うのである。勿論、その売上は、最大限の経営努力を前提とした適正な目標値であって、実現不可能な高過ぎるものであっても、容易に達成できる低過ぎるものであっても意味が無い。何故に「検証」が必要かと言うと、同エリア・同面積であっても、貸主の用途制限・使用細則によって支払い可能な賃料も異なるからだ。「物販限定」と「飲食業可」でも、「軽飲食限定」と「重飲食可」でも売上げの期待値に差が出る。また、同じ用途でも休館日や営業時間の制限によって売上げの期待値は変わるだろう。よって、想定される借主の支払いが困難となる程の逸脱した高値設定なら最初から見直した方が良いと思う。無理を通せば、空室に悩む他店舗貸主からの「引き抜き」等により短期解約の憂き目に遭うことになりかねない。また、借主を「経営破綻」に追い込む一因にもなる。そのうえ、再募集に要する空室期間の無収入状態は紛れもない貸主の「損失」である。仮に入居者から「それでも(高値でも)借りたい!」と懇願されたとしても、破滅的な出店計画だと判断したなら、金融機関の格言同様に「貸さぬも仏」ということもある。また、借主も闇雲に指値(賃料交渉)するより(相手にもよるが、)根拠を示して賃料見直しを求めた方が良いと思う。要するに「貸したい賃料」にも、「借りたい賃料」にも説得力が必要だということだ。

    そうは言っても、売上げ対比を重視する余り一般的な「路面店」の賃貸借契約に「変動制賃料」を採用することは、お勧めできない。貸主の要望で誘致され、イベント開催の有無により売上げが大きく左右される大規模な複合商業施設やホテル内の管理体制が確立された店舗ならばともかく、経理を複雑にするのは得策とは思えない。何よりも経営努力で伸ばした売上げは、借主の利益とする方が事業意欲の向上に繋がると思うのである。

    それでも、「Facility Management(ファシリティマネジメント)=施設管理業務」の観点から、最大限に賃料の高値を追求しようとするならば、「用途を緩和(時に制限)」するだとか、内装済の「居抜き」店舗にするだとか、何らかの「創意工夫」や「付加価値」が必要である。また、「路面店」の募集に注力するあまり上階への影響を見誤ってはならない。下階の「匂い」「騒音」「振動」等は上階のオフィスに多大なる影響を及ぼす。上階の賃料を下押する要因になってしまうなら元も子もない。実例だが、ある貸主(ビルオーナー)は、月額賃料3万円/坪超の高値を提示した焼き鳥店(煙と匂いの出る重飲食)を断って、店舗の外装・内装に拘りを持つ月額賃料2万円/坪の指値をしたカフェ店(お洒落な軽飲食)を選んだ。その貸主曰く、「ビルの『顔』だから、『賃料』よりも『美観』を重視した。」とのことだった。

    今まで、引く手数多(あまた)だった「路面店」に暗雲が立ち込めている。本来なら滅多に新規募集することが無かった一等地の「路面店」にも空きが出る。果たして、「ピンチ(危機)」と見るべきか、「チャンス(好機)」と見るべきか。「コロナ禍」にあっては、どんな優秀な経営者であっても迷うのは無理も無い。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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