思うところ203.「温度差」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ203.「温度差」




    <2025.9.16記>
    当社の仕事は不動産の賃貸・売買に関して件数だけで言えば仲介業務が多いのだが、収益構造からすれば自らが当事者となって行う不動産売買による売り上げが大きく、売買に付随する賃貸事業(保有資産の収益化)の安定度、確実性が高い。つまり、売主(再生再販)や貸主(賃貸事業)の立場であることもあれば、買主(リノベーション事業の仕入れ・顧客からの要請による代理取得)や借主(転貸事業)の立場にもなる多角的ビジネスモデルである。よって、二刀流の仕事どころではない。八面六臂の営業姿勢を以てあらゆる立場に身を置くからこそ良く分かる。高く売りたい売主と安く買いたい買主(又は「高く貸したい貸主と安く借りたい借主」)、不測の事態に少しでも修理費を抑えたい貸主と過剰なまでに完璧な修理を要求する借主、立場の違いによる「温度差」はいつも大きい。

    此処で言う「温度差」とはコラム№89(整合性)で述べた乖離(やると言ってやらない、できないと言ったはずなのに知らぬ間にできている、といった類いの整合性の無さ)のことではない。平たく言えば「見解の相違」であるのだが、どちらかと言うと対極にあって相容れない我欲の距離感のようなもの。又は対峙する者同士の衝突、軋轢の激しさと言った方が良いかもしれない。流石に個人・法人レベルの諍いを国家レベルの戦争に喩えるべきではないだろう。

    コラム№61(仲人)で書いたように仲介業務に携わる宅地建物取引業者は円満の内に良縁を取り持つ仲人(なこうど)であることが理想的であると考えつつ、利益相反関係の渦中にあっては仲介人が板挟みになるのはやむを得ないことだと割り切っている。だからこそ正しい相場観や専門知識と豊富な経験を併せ持つ熟練の者のマネジメントが必要であり、特にリスクの大きい複雑な案件については不動産取引に不慣れな売主と買主、貸主と借主が直接交渉とすることはあまりお勧めできない。一方的な自己主張ばかりの激論を延々と交わすようでは商談は平行線のままとなりかねない。やはり商談を俯瞰して冷静に妥協点や解決策を見いだせる第三者の取り纏めが必要だと思う。不動産取引は落とし穴盲点)が多くて危険性も高い。慣れない登山に頼れる山岳ガイドが必要であるのと同じことではないだろうか。

    当社では投資用不動産の売買に紐づいた賃貸管理も行っている。管理手数料を惜しんで貸主自らが所有不動産の管理を行う人もいるが実のところ後悔する人が多い。会社員として働きながら(又は本業に従事しながら)エアコン故障トイレの詰まり漏水事故騒音問題鼠被害等々の苦情を直接受ける煩わしさと精神的苦痛は計り知れないものがある。当社は居住用のみならず投資用の不動産の取引も多い為、賃貸管理業務(更新手続きや退去清算、再募集を含む)は売買取引を円滑に進める為に必要不可欠な派生業務(アフターサービス)であると考えており、「いざ、鎌倉」の心意気で顧客の盾となることを心掛けている。

    賃貸管理を行っていると改めて思い知らされるのが築年数と苦情の発生率が明らかに比例すること。それに築年が経過した建物程に貸主と借主の申立てに大きな隔たりが生じることも。仮想の紛争としてこの真夏のエアコン故障をイメージして貰いたい。苦情を申し立てられた貸主:メーカーの調査報告書には「フィルターの汚れが原因」と書いてあるじゃないか!しかもエアコン修理もすぐに手配した。あまりにも理不尽な要求じゃないか?古いからこそ安く貸したんだ。恩を仇で返す気か!苦情を申立てた借主:賃料が割安であることや空調専門業者がパンク(修理依頼殺到)状態なんてことは僕には関係ない!フィルター清掃の怠慢が故障の原因だというのなら文書を以て科学的に証明しろ!エアコン修理が長引いたのだから家主の責任としてホテル代の負担くらいは当然だろ?エアコンはすぐに新品に交換しろ!改正民法611条には家賃の減額請求についてだって明記されているんだぞ!

    前述の紛争は単なる仮想のものであるが実際にもそれに近い事案が珍しくはなく、過去には給湯器の故障で3週間近く風呂に入れなかったことに憤慨、銭湯代ではなくスーパー銭湯代の名目で家賃を上回る額を平然と貸主に要求した人がいる。コラム№191(カスハラ)では誤解を恐れずにお客様は神様ではないことを述べたが仲介人と同じく賃貸管理に携わる者はとても微妙な立場にあることが多い。微妙で脆弱な立場にあるとカスハラ(Customer Harassment)の憂き目に遭い易いものである。非など無くともぶつけ場所の見つからない怒りや苛立ちの矛先は否応なく第三者の我々に向けられがちである。

    「おおよそ苦情などというものは小さな誤解と大きな温度差から生まれるものだ。」9月半ばというのに地球温暖化のせいでこの季節にあるべき寒暖差が今一つ感じられない今日この頃、残暑と多忙に少し疲れて独り言つ。


     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。

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