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  • 思うところ109.「DEN」




    <2021.10.1記>
    最近マンション広告の間取図に「DEN」という文字を度々目にするようになった。かなり前から使われてきた間取図内の表示方法(呼称)であるが、「コロナ禍」にあっては、自宅内でも落ち着いて仕事ができる空間として強調するに値するセールスポイントになっているようだ。DEN=「書斎(的な空間)」と解釈するのが妥当だろう。寝室や子供部屋として利用可能な広さなら、「S(=Service room)」の表示になることが多い。(「S」は、本来1室として表示したい区画であるが建築基準法に照らすと有効採光が不足している等何らかの理由があって部屋表示が許されない空間)尚、「N」は納戸(Nando)の略である。単なる「物入」と表示するには惜しい広さの「大型収納スペース」のことを指している。その「N」にハンガーパイプや枕棚を設えて、「W」又は「WIC」と表示することもある。今や言わずと知れた「Walk‐in closet(人が入れる程の大型クローゼット)」のことである。

    私にとっての「DEN」とは、幼少期の出来事を呼び覚ます思い出深い単語でもある。本来、「巣窟」とか、「ほら穴」、「隠れ家(が)」等を意味する言葉だ。サイエンス・フィクション(SF)の父とも称されるフランス人作家ジュール・ヴェルヌが書いた不朽の名作『十五少年漂流記』の中で無人島に漂流した少年達が住処とする洞穴を「フレンチ・デン」と命名する場面がある。(残念ながら、黒人奴隷に関する記述が障害になって今時の小学生には推奨されず名作が世に埋もれつつある。)私は、この少年向け冒険小説が好きで何度も読み返したから「DEN」が何であるかを良く覚えていたのである。だから、間取図に「DEN」の表示が使われ始めた頃、本来の意味とは異なると知っていながらも、「閉鎖的空間」を端的に表すには的確なネーミングであると納得できた。優れた商品企画設計・販売の担い手自らが「行燈(あんどん)部屋」などと卑下した言い方をするべきではないと常々思っていたからだ。

    子供の頃(小学校2年か3年の夏休み?)、私は「フレンチ・デン」に憧れ、自宅隣の空地に穴を掘って地下室を造ることを思いついた。幸いにも納屋には土木作業に使うような道具が沢山あり、シャベルの2、3本持ち出しても気付かれることは無かった。(気付かれたとしても叱られることは無かったと思う。)兄も従兄弟も私の言う「DEN」が何のことかは分らずとも手伝ってくれた。その前は、「ターザン」に憧れて叔父の家の庭木に「ツリーハウス」を造ろうとしたから「基地・住処」に近いものだと言うことは認識していたと思う。

    そんなある日、から「おまえ、落とし穴を掘っただろ、危なかったんだぞっ、」と叱られた。その日運悪く、庭木(かなり立派なモチノキ)を空地から搬入しようとした業者(庭師)のクレーン車が嵌まったらしい。自分達が這い上がれない深さまで掘り進めると梯子の代替品が見つかるまで作業を中止せざるを得ず、板切れや段ボールで蓋をしておいたのが災いした。悪戯(落とし穴)の意図は無く、「DEN」だと弁明したと記憶しているが、父にはそのプロジェクトが何なのか全く理解できなかったと思う。怒りながらも父の目は笑っていたが、その穴の深さを知る私はゾッとした。おそらくクレーン車が横転していたら大惨事になっていただろう。

    ん、いつもながら話がテーマ(不動産)から脱線しつつある。話を戻そう。

    コラム№77「VIRUS」で予見した通り、家(間取り)のニーズに変化が見られる。快適に在宅勤務するには、本来「もう一部屋」が望ましいのだろうが、都心部で広さを求めると住替えの予算が跳ね上がってしまう。郊外に移転するのも一案であるが、人それぞれ其処に住まう事情がある。「間数を増やせない」、「郊外に移れない」ならば、「DEN」といった商品企画が再注目されて然るべきだろう。我々業界も先回りして「在宅勤務仕様」に注力している。しかしながら、まだまだ創意工夫が必要であるとも感じている。

    オンライン会議の際に同僚に室内を見られたくないという声もある。個別空調が無いことで居心地の悪さを感じる人もいる。子供の泣き声とペット鳴き声に悩む人もいる。通信速度に不満を持って「NURO 光」の導入を求める人もいる。共働きの在宅勤務は適度な距離を保つことが難しい。 そもそも緊急事態宣言が明けて猶、当然のように自宅の無償提供を社員に強いるのは、ある種のパワハラに近くないのだろうか・・・。

    我々は、「コロナ禍」にあって、ただ転んではいけない。『十五少年漂流記』では、少年達が創意工夫で食料問題も燃料問題も次々と解決していった。勿論、手掘りで地下室を造ろうとするチャレンジ精神も大切である。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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