思うところ113.「設計」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ113.「設計」





    <2021.12.1記>
    稀なことではあるが、心ない分譲マンションの原設計を目の当たりにし、その「配慮の無さ」に苛立ち、分譲主の「利益至上主義」の思惑までもが透けて見えたような気がして憤りを覚えることがある。その心ない設計による建物が分譲主から無理強いされてこの世に生み出されたものだと推測されたなら、時空を超えて伝わってくる当時の設計部門・設計士の「悲哀」と「苦悩」さえも感じてしまう。私特有の「第六感(sixth sense)」みたいなものだ。

    例えば、エアコン用スリーブの無い部屋。夏場が今ほど暑くはない時代、それが扇風機主流でエアコンが贅沢品と見做された頃の名残だとしても先見性が欠如していたとしか思えない。本年のノーベル賞受賞者となる真鍋淑郎先生のように50年以上も前に地球温暖化を予測することができた人はいなかったと思うが、当時の日本は着実に高度経済成長を遂げつつあり、多くの人が将来得られると信ずるに値するだけの経済的豊かさの手応えを感じていたと思う。事実、今やエアコンは各部屋に1基設置が当り前の時代になった。

    例えば、内開きの玄関扉。未完成段階で発売される新築マンション販売においては、図面集で充分な説明を受け、頭では難点を理解していたとしても住んでみると実に使いづらいものだ。廊下を通行する人との衝突防止の為の設計とは謂えども、車椅子利用者などは自宅の出入りにとても難儀する。やはり、販売対象となる専有面積を縮小してでも玄関前に適度なアルコーブ(壁の一部を後退させて生み出す独立した空間)を設けて玄関扉を外開きとする快適な住まいづくりを優先して欲しかった。

    例えば、所謂「区画壁」と呼ばれる壁内が空洞の戸境壁。極限まで建築費を削減した結果なのだと思うが、区分登記の要件となる「構造上の独立性」と「利用上の独立性」を充分に満たしていると言えるのだろうか。その事実を登記官が知っていたならば、果たして区分登記に応じたものか疑問に思う。昭和40年代のオイルショックの頃の建物で堅固な建物(RC造・SRC造等)であるにも拘らず、隣接住戸の会話が聞こえるレベルならば、戸境壁の薄さの問題以外にこの区画壁が遮音性の低さの原因となっているかもしれない。

    例えば、共用部から容易に侵入できるオートロックシステム。見映えの良いエントランスはデザインとして賞賛に値するものだが、敷地裏手に回り込むと1階開放廊下の壁面はせいぜい高さ1.5m程度しかなく、大人なら簡単に乗り越えることができる。それがなぜ「安心の」といった謳い文句になるのか私には意味不明の建物構造である。「なんちゃってオートロックシステム」と呼ぶ方が的確な表現ではないだろうか。

    「例えば、」を書き連ねればきりがないのだが、私が今一番問題だと感じている設計は、汚水・雑排水の枝管が下階の天井に食い込む構造の区分所有建物である。配管の勾配不足を補い、階高を確保する為に発案した設計士の「苦肉の策」だとは思うのだが、配管劣化が限界に達した頃、いざ更新工事を行なおうとしても階下の所有者・居住者の同意と協力がそう簡単には得られない。下階の住戸の他人様を居住中のままにして天井を一旦解体、短時間で汚水管を交換することなど非現実的である。

    下階天井裏を通る枝管の漏水事故の責任の所在が「(上階の)区分所有者にあるのか、管理組合にあるのか」、つまり、「専有管であるのか、共用管であるのか」が最高裁まで縺れ込んで争われた判例もある。私見だが、それは枝管がどちらの「支配管理下」にあるのかで判断すれば良いと思う。とすれば、その枝管はどちらの支配管理下とも断言できそうにない。よって、「そんな構造の建物を分譲しちゃいけない。」というのが私の結論である。

    悔しいことではあるが、それらは皆、中古マンションを再生すべくスケルトンリフォーム(内装を一旦解体撤去、水廻りまで一新)を行なう我々でも力及ばぬ構造上の問題である。私は、前記漏水事故の真の加害者は、売上げ(販売面積)を増やす為に無理な設計を現場に命じた分譲主のトップとその様な設計を許した監督官庁であると思っている。ただ、私が本当に怒りを覚えたのは、その建物の管理規約の別表にその枝管が「専有管」である旨を図解入りで明記されているのを発見した時だ。その分譲主の企画担当者は、30年後、40年後に大きな問題となることに気付いていたと思う。つまり、区分所有者に責任を押しつけることを意図した記載であり、「確信犯」であったことが疑われるのだ。

    今、消費者が本当に評価すべきは、「見映え」ではなく、将来の大規模修繕まで見据えた「心ある」設計なのだと思う今日この頃である。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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