思うところ199.「曖昧」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ199.「曖昧」




    <2025.7.16>
    随分昔の些細なやり取りにも拘らずなぜか記憶に残るお客様の呟き。海外を舞台に活躍する弁護士が自身の投資を目的に日本国内の不動産を購入するにあたり、私と売買契約の最終打合せをしていた時のことである。その人はA3サイズ両面唯1枚で構成された売買契約書の雛形(ごく一般的な書式)に目を通した後、「これじゃ(この書式では)、海外の取引では通用しないなぁ。」と溜息交じりに本音を漏らしたのである。コラム№37(抜き行為)の末尾で紹介した「定め無き事項は信義誠実のもと協議解決する。」という主旨の曖昧な表現を嘆いての指摘だった。個人的には我が国ならではの誇らしい結びだと思っているが、白か黒、Yes or Noを明確にする海外の取引では通用しない条項であることは耳痛くとも紛れもない事実であると思った。

    欧米の契約書式はとても細かいと聞く。例えば、大物メジャーリーガーの契約書は報酬のあり方に限らず、休憩時や移動時の約束事からプライベートにおける禁止事項やそれに違反した場合のペナルティまであらゆる事態を想定してきめ細かく明文化されているらしい。だから電話帳レベルの分厚い冊子にならざるを得ないのだと言う。また、欧米の大富豪は婚前契約書(結婚後のルールや離婚した時の財産分与を予め決めておく契約書)の作成に弁護士を交えて膨大な時間と労力を費やすとも聞く。片や日本では揉め事はそれが起きてから話し合えば良い(話せば分かり合える)といったふうに良く言えば牧歌的であって性善説寄り、悪く言えば問題先送りの事なかれ主義である。

    日本人の「検討します!」は事なかれ主義の典型的な言葉遣い。検討の確度はその場の空気を読まねば分からない。外国人が聞けば言葉を鵜呑みにして商談が纏まると勘違いしてしまうことだろう。「前向きに」が付されてようやく60%~70%の成立見込みといったところだろうか。「検討はします。」と「は」がたった一字加わっただけで商談はほぼ見送りと思った方が良い。「検討だけはしてみます。」なら取引は絶望的だ。外国人相手の商談が急増しており、そういったその場しのぎの逃げ口上は慎まねばならないご時世となった。

    曖昧な規定にすると問題になりかねないのがペットの飼育細則。規約改正に手付かずで昔ながらのマンション管理規約、又はそのペット飼育細則には「人に迷惑を掛けない動物に限る(又は人に迷惑を掛ける動物の飼育は禁止)」とだけ書かれたものが散見される。さて、人に迷惑を掛けないとは?そこまで曖昧なルールだと却って紛争の火種となりかねない。例えば、世界で最も危険な犬と言われるピットブルでさえ可愛いとしか思えない人もいるだろう。その一方で小さなトイプードルですら怖くて近寄ることができない人がいる。それに吠え声に対するストレス耐性も十人十色である。また、ある新築現場では管理規約に「エレベーター内で抱くことができる大きさ」と大まかな目安しか書かれていなかったが為に「俺はドーベルマンだって抱えることができるぞ!」と販売スタッフに屁理屈を言って凄んだ人もいる。そんな反省点を踏まえて今では「成長時に体長50cm以内、かつ体重10kg以内」で一匹か二匹迄とするのが主流(又は明確にペット飼育禁止)になっている。それでも「10kgの犬が運動不足で11kgに太ったらどうすれば良いの?」と真顔で質問する人もいた。

    問題の本質が分かりにくいのが区分所有マンションの建替問題である。私が不動産業界、いや、日本の将来を憂いて最も危機感を抱いているのが区分所有法の欠陥である。マンションの建替えを「皆で話し合って決める」と言えば聞こえは良いのだが新法(建替法)を用いてさえも現実的ではない。そもそも多数派の意見が必ずしも正しいとは限らないのだ。だから時を迎えて話し合うべきは建替の延期や建物延命の方であって新築分譲時には予め建替時期を確定させておくべきとするのが私の持論である。常識とは真逆の発想であるが区分所有建物分譲の黎明期における法整備が明らかに稚拙だったように思う。明確な方針を決めておかないことよって将来の紛争と混乱の種を日本国中に撒き散らしてしまった。私の主張はコラム№150(逆転の発想)を今一度お読み頂きたい。

    コラム№166(鈍感力)では大局観や寛容の大切さを説いたが、コラム№2(ファインプレー)で述べた通り、予見できるトラブルは未然に防ぐのが望ましい。性善説と性悪説を公私で使い分けたら良いと思う。時には言いにくいことも誤魔化さずにありのまま思うところを述べ、軋轢をも恐れず正々堂々と物申すべきであることを声を大にして申し上げたい。私はいつでも「五分五分(50-50)」としか答えない営業マンは信用しない。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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