思うところ150.「逆転の発想」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ150.「逆転の発想」




    <2023.7.1記>
    区分所有マンションの老朽化問題に捲き込まれる度に疑問を抱く。賛成多数を以て建替を決議する現在の区分所有法のあり方はそもそも最初が間違っていたのではないのかと。賛成多数を以て決議すべきは、むしろ「建替の延期(延命措置)」の方であって、分譲当初から建替時期を明確に定め、それを購入者が承知した上で取引されるべきだと思うのである。その仕組みが当り前のこととして確立されれば、賛否両論、怒号までもが飛び交う喧々諤々の建替協議は無くなるだろう。

    このテーマは定期借地権付マンションの仕組みと切り離して考えねばならない。定期借地権付マンションは敷地を更地にして底地権者(地主)に明け渡す時期が決まっている。元々土地を所有していないのだから(理論上は、)建替問題に発展することはない。その点において土地を所有しない定期借地権付マンションと土地を共有する従来型の区分所有マンションとは全くの別物と考えるべきなのである。

    鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年。これは主に税務上用いられる指数であり、建物の減価償却期間のことであるから実際の建物寿命(物理的耐用年数)とは異なる。(近年、金融機関は法定耐用年数より融資対象不動産の築年を減じた年数を投資向け貸付の最長期間とする傾向が一段と強くなった。幸いにも住宅融資に関しては築古であっても比較的柔軟に対応してくれている。)実際の建物寿命は採用した建築資材の品質や適切な維持管理が為されたか否かで短くも長くもなるが、一般論として60年位だと思われる。(事実、1998年の改正前の法定耐用年数は60年であった。)ならば、区分所有マンションの建替時期は一律に築60年を期限と定めてしまったら良い。(超優良住宅なら築80年を建替期限とすることも検討に値する。)

    勿論、高品質と適切な維持管理によって100年以上使用収益可能な建物もあるわけであるから、築50年を経過した時点で有資格者による建物診断を行なったうえ、管理組合の総会で「建替時期の変更(前倒し・延期)」を審議すれば良いのである。建替延期なら併せて建物延命のための長期修繕計画の見直しも建設的に話し合うべきだろう。相応の修繕費の支出の覚悟無くして建替時期だけ延期しても意味が無いからだ。

    建替時期の延期が否決されて築60年目に建替えることになるなら、建替に反対する少数派の土地持分は建替推進派(増床希望の人)や建替工事を請負うゼネコン、再販能力のあるディベロッパーに買い取って貰えば良く、その仕組みさえ作っておけば建替工事のための拠出金が用意できない資金的弱者も最低限の救済ができる。できれば、建物プランの合意形成が難しい複雑な等価交換事業よりも、敷地をディベロッパーに一旦売却して商品企画を任せた方が良いとも思う。その上で地権者が望むなら再取得し易いように商談順位の確保と税務上の優遇措置を設け、住宅融資を再利用し易い環境作りが必要になる。私が敷地売却方式を推すのは、ユニット構成(面積配分)や配棟計画のみならず、設備・仕様の細部に至るまで地権者全員が満足できる建築プランの立案など実現不可能に近いものになると予想するからである。

    建替問題は日本社会が直面する少子高齢化問題と密接に関係している。年金暮らしの独居老人が増える昨今、建替に賛成したくとも住宅融資の利用が難しい人や仮住まい先が確保できない人もいる。建替協議になるとそう言った多岐に渡る諸問題が浮き彫りになってくるはずだ。「終(つい)の住処として買ったのだから(建替反対)」との切実な主張も理解できる。しかしながら、人は等しく歳を取るものであり、同じ主張をするであろう次世代が控えている。その連鎖が途切れることはないだろうから、「終の住処だから」との主張を受け入れ、ポピュリズムに流され続ける限り建替計画は一向に進まない。建物劣化の耐え難きを耐え、誰の目から見ても「限界マンション(使用収益不能)」と判り、周辺建物に危険を及ぼす深刻な事態になってからようやく建替が容認されるということになりかねない。

    建物がいつの日か限界を迎える現実に目を背けてはいけない。無慈悲と誤解されかねない提言だが、私が最も言いたいのは、「その時に備えよ」ということである。「和を以て貴しとなす」精神はとても大切なことではあるが、こと建替問題については、「皆で話し合って決める」というどこか牧歌的な緩い文化・伝統が合理的判断を阻害しているように思う。そうではなく「決まっていることだから備える」方が現実的であることは間違いない。終わりが決まっていればこそ管理組合は無駄の無い長期修繕計画を立案し易くなるし、各々にとっても自身に適する時期に納得いく時価での売却・購入の決断がし易くなる。また、賃貸するにしても、然るべき時期から定期借家契約を条件に入居者を募集することで賃借人の立退き問題を回避できるというものだ。

    天動説を否定すれば重罪となった時代に天文学者コペルニクスは「それでも地球は回っている」と地動説を唱えた。彼のような常識・権威に囚われない視点を持ち、言うなれば「逆転の発想」をもって困難に立ち向かわねばならないコペルニクス的転換期が到来しているように思う。

     


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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