
<2026.3.2記>
前回のコラム№213(豆知識を以て戯れる)の末尾にて我が身を置く不動産業界にも拘らず、働き方改革とは名ばかりの軽薄な振る舞いと職務怠慢が蔓延る現風潮に「やばい!(=本来の「So bad!」の方)」と嘆いた。今回のコラムは何故その様に思ったのかを昨年の事案を基にして語りたい。
その嘆きは12年前に当社が再生再販したマンションのご購入者様(A様)からご用命頂いた買換案件(自宅売却&新居購入)に纏わる出来事に始まる。発売準備の打合せをすべく久々にA様ご夫妻に再会したその日、同マンション内でお買換えをした当時の思い出話に花を咲かせる内に当社に寄せる信頼の証とも受け取れる有り難いお言葉の数々を耳にして涙腺が緩みそうになる程嬉しく思った。同時にその信頼に恥じぬよう全力でサポートをすることを胸の内に固く誓った。お客様との信頼関係はかくあるべし、とつくづく思う。
幸いにも好調な不動産市況下にあってA様のご自宅は程無くして買主(B様)が現れた。その商談を恋愛に喩えるならば相思相愛、我ながら最良のマッチングだったように思う。ところが、B様も買換えであったが為、売主もまた買主、買主もまた売主となる相関図の真ん中に置かれた私は双方の売却手続きを円滑に進めねばならぬ難しい舵取りになることを覚悟せざるを得ず、その重圧に気の引き締まる思いがした。売主の既存借入の返済と買主の融資実行、双方の住民票の転出と転入のタイミング、全ての手続きに細心の注意を払いつつ、明渡し猶予の特約を駆使してA様の仮住まいの負担を解消、大型車を保有するB様の為に然るべき駐車区画の確保に奔走、B様の住宅融資と購入経費削減の為の耐震基準適合証明書の取得の手配等々、その他にも私が解決すべき難問は山積していた。双方にとって最大の利益となるよう配慮をすればするほど容易に見えても容易ではない複雑な取引とならざるを得なかったのである。しかも買換案件の場合、その買主までもが買換えであると買換特約(売却不調の場合は白紙解約)の連鎖により破談になるリスクは高まってしまう。(破談をドミノ倒しに見立ててイメージすると分り易い。)だから私はB様が自宅の売却代金を充当しなくとも購入可能な資金調達力に着目して何とか融資特約(融資不調の場合は白紙解約)のみとすること(=買換え切り離し)で取引に関わる全ての人のためにも白紙解約リスクを軽減させたのだった。
光栄なことに買換特約も付さない契約だったにも拘らず、A様宅を購入したB様までもがご自宅の売却を当社に専属専任媒介で任せてくれた。図らずも2つの買換案件を同時に受託することになったのである。但し、A様の新居取得については万が一(B様の融資不調)に備えて買換特約を付して契約してくれる売主物件を見付けねばならないというやや重たい課題を残してしまった。
そこで私はA様に新居については当社の先行かつ代理取得を申し出たのである。仲介人が其処まで多大なリスクを負うことは通常はあり得ない。同業者にしてみれば耳を疑うような提案だろう。だが、当社なら私の一存で代理取得が可能だ。2案件全体のプロジェクト損益で考えれば許容できるリスクだし、僅かながら売却益までもが期待できる。また、近年の売り手市場にあって契約に停止条件や解除条件を付さず、売主が契約不適合責任を負わない(=売主の瑕疵担保責任免責の)商談ならば競合しても優位に立てるメリットは大きい。売主の立場なら誰でも安心確実な方の取引を望むのは当然の理だろう。新居を一旦当社の保有物件にすればA様の先行入居も受け入れ可能になる。それにA様が気に入ってくれた新居は宅地建物取引業C社が流通機構(レインズ)に登録して販売する所謂「業物(業者物件)」であった。つまり、当社がそれを直取引で代理取得すれば売主であるC社も、当社からそれを直接購入することになるA様も、双方に仲介手数料支払いの負担が無くなるわけだ。よって、私はC社には仲介手数料相当額を定価より減額して社内稟議を通して貰い、登記費用や不動産取得税等の取得経費を勘案しても多少の利益は出るようA様にはC社の定価に仲介手数料相当額を加算した価格での取引を快諾頂き売却を取り纏めた。
此処からが本題であり私の嘆き節となる。C社の対応は実に酷いものだった。担当者の上司が「社長決裁を得た!」と取引に太鼓判を押しておきながら商談が纏まって僅か2日後、「他社から満額で買付(購入申込書)が入ったから御社に売ることはできなくなった。」と悪びれた様子も無く担当者からの連絡が入った。だが、直接取引することで実質満額で購入する当社が仲介案件に負けるはずは無い。私は仲介会社が手数料を放棄(両手仲介→片手仲介)してまでもこちらの商談の転覆を謀っていることを本能的に察した。よって、私は憤りを感じながらもA様との約束を果たすべく損失が出るのを覚悟して満額で買うことを決意し、C社にこちらの商談を断る理由を与えてはなるまいと間髪入れずに購入価格の見直しを申し出て競合する小賢しい商談を瞬時に打ち砕いたのである。
因みに当社が売主となる物件(自社物件)の場合、売買条件が大筋で折り合いがついて契約日まで約束したならば、後から入った商談が仮により良い条件であったとしても迷うこと無くお断りしている。少なくとも商談順位は最大限尊重する。同業他社は「利益を追求する姿勢が甘い!」と嘲笑するかもしれない。だが、約束を守ることこそ我々が大切にしなければならない根本的な商道徳であり、それは私の信念でもある。何にせよ浮利を追って道を外れた取引をすれば信用を失う損失の方が遥かに大きい。
業界の商道徳や私個人の信念はさておき、「住替え先が確保できました!」と報告した直後に間抜けな報告はできない。ご年配のA様ご夫妻は「新居を終の棲家にする!」とまで喜んでくれていた。何としても約束は果たさねばならない。そもそもそんな私だからこそ12年の時を経てもA様は再び私に住み替えの全てを任せてくれたのだ。私はそう自分に言い聞かせて己の営業魂を鼓舞した。それにA様の「何があっても私が必ず買い取りますから」という言葉はその出口戦略を書面化などしなくとも信頼に値するものであり、私の頭の中では不測の事態に備えて幾通りもの妙案が浮かんでいた。私は周りが思っているよりも慎重な男である。また、会社員時代の上司からは「齋藤は転んでもただでは起きない奴」とよく言われていた。
だが、満額回答後も私の受難は続く。商談が重なり強気になったC社の担当者は重要事項調査報告書(建物管理会社が発行するもの)を当社負担で取得し直せと言う。そればかりか重要事項説明書も買主(当社)で作成してくれと言う。誤解無きよう申し上げておくが当社は売買契約に「第三者の為にする特約」を付さず、つまりはC社からA様への所有権移転の直接登記(=登記費用と不動産取得税を削減、借入経費を軽減)をすることも無く、満額かつ全額自己資金で決済する一般顧客と変わらぬ買主の立場にあった。何ゆえ買主が買主(自社)に説明する資料を作成しなければならないのか大いに疑問に感じたが担当者はついでに売買契約書も作成してくれとまで宣う。何一つ自分でやろうとしない担当者の営業姿勢には呆れるばかりであった。それでもこの様な怠惰な風潮は不動産業界内では珍しくもないことが悲しくもあり虚しくもある。当社はその手の契約文書作成は何処よりも早いし苦にもしないが筋違いの仕事を押しつけられるのは実に不愉快なものだった。どんな売上高を誇る企業であれ、為すべきを為さずして定時退社や有休消化に拘る企業を私は見習うべきホワイト企業だとは思わない。
私は難しいことを一見簡単そうにやって見せる営業手法を「アヒルの水掻き(コラム№71参照)」と称している。まさに私は水面下で藻掻きながらA様の為にもB様の為にも涼しい顔で新居の売買契約が成立するまで飄々と苦難に耐えた。さて、本コラム欄読者の皆様はC社の守銭奴的経営と手抜き営業をどう思うだろうか。今時の若者風に言わせて貰うならば、やっぱり「やばくね?」

このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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