思うところ226.「都バスでサーフィン?」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

TOPコラム一覧

  • 思うところ226.「都バスでサーフィン?」




    <2026.9.1記>
    当社のリノベーション(中古マンションの再生再販)物件を売買した時(随分昔)の話である。その部屋をお買い上げ頂いたご婦人(当時60歳代、以下「Aさん」)の購入動機は母上(当時90歳代、以下「Bさん」)の「自由気ままな独り暮らしをしてみたい!」という気持ちに応えたやや型破りながら親孝行の為の崇高なる志であり、「(高齢がネックで)誰も家を貸してくれないなら買っちゃえば良いんだ!」という富裕層ならではの大胆な発想だった。その頃、大正生まれのBさんはご高齢にも拘らず元気を持て余していた。特に頭の回転に関しては何ら衰えが感じられない人。そうは言ってもBさんのことが心配で気が気でないAさんは毎日様子見に通う腹積りだったから世間一般の独り暮らしのイメージとは大きく異なる。自立心旺盛なBさんは実の娘と謂えども程良い距離を保ちたかったのではないかと思う。

    物件の引渡し後にAさんとの他愛もない話をするうちにAさんが悪戯っ子のような目つきで私に謎解きを仕掛けてきた。「母の決め手が何だったか分かる?」当社の商品企画は恐縮してしまう程お褒め頂いた直後だったし、Aさんの意味深な口調からしてありきたりな答えではないことを察して私は即答できなかった。Aさんは思惑通り返答に窮する私の表情を見て可笑しそうに言葉を続けた。「バス停が近いからなのよぉ」その説明では腑に落ちるはずも無く私は依然戸惑いを隠せずにいた。なぜならば、最寄駅まで徒歩3分の快適な交通利便性を誇るマンションであってわざわざバスを利用する必要性は全く感じられない好立地だったからである。

    Aさんは一呼吸間を置いてから私を揶揄うかのようにヒントを出してきた。「母の趣味はサーフィンなのよぉ、サー、フィン!」そう言うや否や、「はい、時間切れ!」と言わんばかりにお母様のユニークな趣味を解説してくれた。「母の頭には都バスの路線図が完璧にインプットされているのよ。」Bさんは東京都発行のシルバーパスを使って都内何処へでも移動できるのだと言う。インターネットのヘビーユーザー達に「ネットサーフィン」という言葉があるように都バスを縦横無尽に乗りこなすアクティビティを独自の表現で「都バスサーフィン」と称していたのである。AさんがBさんと外で待ち合わせをするとBさんは敢えて遠回りのルート(乗りたい波)を選択し、満足いくまでバスを乗り継いだ後、約束の時間通りに颯爽と現れるらしい。

    因みに東京都が発行する「シルバーパス」とは、70歳以上の都民を対象に都内の公共交通機関をお得に利用できる福祉乗車証のこと。1年間有効なパスの交付費用は20,510円、半年以内の場合は10,255円(市町村民税非課税者は期間に関わらず1,000円で交付)都営バス、都営地下鉄、都電、日暮里・舎人ライナー、民営バス各社、八丈町営バス、三宅村営バスなど、都内の多くの公共交通機関を自由に何度でも利用できる。要するに東京都管轄の公共交通機関が低額かつ定額で乗り放題になる高齢者向けの手厚い福祉政策なのである。ご高齢者の引き籠もり防止にも一役買っているのではないだろうか。

    さて、Bさんには驚愕の後日談がある。Bさんはある日突然行き先も告げずに遠出してしまったそうだ。行き先は東京から700㎞以上も離れた生まれ故郷。Bさんにとってはほんの思いつきの小旅行だったのかもしれないが生家があった辺りを散策するうちに自分の終の住処とするに値する有料老人ホームを見つけたそうだ。覆面調査の意図までは無かったと思うが施設内を堂々と見学(施設職員はBさんの入所を期待したのか丁寧に施設を案内)、その後何事も無かったように涼しい顔で帰京(AさんはBさんの不在を知って行方不明と大騒ぎするも携帯電話が繋がって事態は収束)、その時には既に独断で終の住処は其処と決めていたそうだ。穿った見方をすれば終の住処の発見が偶然だったとは思えない。

    ご存じだろうか、青春18切符(全国のJR線の普通・快速列車の普通車自由席が乗り放題になる企画切符)は若者の特権と思われがちだが実のところ対象者に年令制限は無い。還暦過ぎたる私が言うのは気恥ずかしくもあるが、そもそも青春に年齢制限など無いのである。18という数字に臆せず「生涯青春」と胸を張れば良いだろう。むしろ、気力・体力があるにも拘らず時間を持て余すリタイヤ組(世代)こそが最大限に活用できるアイテムなのである。Bさんに青春18切符の存在と購入可能対象者に年令制限が無いことを教えていたらどうなっていたものやら。まず、Aさんにこっぴどく叱られたであろうことは容易に想像できる。だが、Bさんがどんな逸話(伝説)をどれだけの数生み出すことになったかまでは想像だにできない。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。

茅場町・八丁堀の貸事務所・オフィス, 中央区の売買物件検索
PAGETOP