<2025.9.1記>
不動産の誇大広告は宅地建物取引業法第32条により固く禁じられている。その他にも景品表示法に基づく規定もあるし、不動産公正取引協議会に加盟する業界団体所属の宅地建物取引業者なら景品表示法の規定に基づいて団体が自主的に定めたルールに対して公正取引委員会から認定を受け、それを公正競争規約として遵守しなければならない。よって、売主や仲介人が至高の商品企画であると心から信ずる優良な物件だとしても不動産広告には様々な制限があって「最高」「最高級」「極上」「特級」等、最上級を意味する表現を用いることは許されない。
さて、広告規制はともかく世間一般で言う超高級マンションとは何を以てそう言うのだろうか。コラム№10(常識)やコラム№198(シャワー室)でも述べたが常識など実に儚く脆いものであり、その時代によって基準や定義、トレンド(流行)に至るまで目まぐるしく移ろいゆく。例えば、大正生まれの祖父が小物(ZIPPOライターやベルト)を「これは舶来物だからな、(だから良いもの)」と孫の私に自慢することがあったが、昭和生まれの私からすれば「外国製だから何?」としか思えなかった。平成生まれの若者にとっては「舶来物」などという言葉は既に死語になっているし、令和に生まれた新世代は「ハクライヒン」などという単語を耳にすることは無いだろう。むしろ今では外国製の粗悪品を警戒するあまり国産品に拘る人が多い。海外でもMADE IN JAPANの信頼度はなかなかのもの。超親日の人々はUSED IN JAPANなら、(信用する)とまで言ってくれるそうだ。
私が思うに標準仕様のマンションと一線を画した超高級な建物と位置付けるならば、まずエントランスには車寄せがあって欲しい。超富裕層が住まう邸宅なら車での送迎が想定されるからだ。ところが大規模な開発用地の取得が難しい東京都心部においては庶民に手が届かない超高額価格帯でありながら車寄せまで備えたマンションの新規供給はとても少ない。(だからこそ高付加価値の共用施設とも言える。)車寄せがあるマンションなら他の共用施設も充実しているはずだ。自ずと駐車場の附置率も高い。だが、単に附置率が高ければ良いというわけではなく大型高級車の入庫可能(できれば平置き)が前提となる。尚、超高級車やレアな名車ばかり(=大金持ちが住まうコミュニティ)なのに警備の甘いコミュニティであると窃盗団に狙われやすい。よって、守衛に門番をさせる厳重な警備体制を敷くかリモコンゲートでセキュリティが強化されていることが望ましい。リモコンゲートのある地下駐車場から専用エレベーター(以下「EV」)で棟内に移動できるようプライバシーにも配慮された設計が理想的である。その様なマンションはマスコミに追われる程の著名人には大いに好まれる。(大物芸能人においては必須条件だったりする。)
オートロックシステムは今や当たり前になってしまった。大規模タワーマンションではWオートロック、トリプルオートロックさえ珍しくない。だが、私としては高度なセキュリティシステムよりもフロントでコンシェルジュが礼儀正しく出迎えるホスピタリティ(おもてなしの精神)を重視したい。コンシェルジュがいるマンションならエントランスホールは当然に高級ホテルのロビーやラウンジのような造り込みになっていると思う。また、コンシェルジュには凛としていて欲しい。入居者がいるにも拘らず、コンシェルジュが警備員やフロントマネージャーと無駄話をしているのを見かけることがあるがとても見苦しく思う。
ファサード(建物正面のデザイン)は正に「建物の顔」、第一印象が重要なのは人も建物も同じだ。外壁は重厚感のある磁器質・特注のタイル、要所に天然の大理石や御影石を多用すると高級感を醸し出せる。レンタブル比(延床面積に対する専有面積の割合)は大胆に下げてでも共用部を充実(ロビー・ラウンジ・中庭等々)させて欲しい。勿論、開放廊下よりも内廊下の設計が好ましいことは言うまでもない。照明を適度に落として間接照明を設け、所々に美術品を配置する等の気品溢れる装飾でデザイン性が高められた内廊下なら、迎賓館の回廊にも似た独創的な雰囲気になるだろう。また、コラム№21(異空間)で述べたがこれからの時代は不動産を平方メートル(M2)ではなく、立方メートル(M3)で評価する時代だと思う。つまり、有効面積ではなく有効容積で評価すべきという考え方。だから、居室の天井高は2,500mm以上を確保したい。共用部に限らず専有部にも吹き抜けがあるなら尚更に開放感が増して快適な空間となる。
ゴミ置場の配置や回収のあり方は思いの外に重要なポイント。理想としては悪臭が発生しがちな生ゴミはキッチンのディスポーザーで粉砕処理ができ、その他(無臭のゴミ)は各階のゴミ置場で回収できると良い。どうしても各階にゴミ置場を設けられない設計上の事情があるならせめてもゴミ搬出用の貨物用EVを設けるべきだ。貨物用EVが無いコミュニティのある日の朝のゴミ出しを想像して貰いたい。生ゴミ片手にEVに乗り込むやご近所さんと鉢合わせ、液漏れのマナー違反が無いのは当然としても臭い漏れまでは防げるはずも無く、その場の気まずい雰囲気を互いに苦笑いして誤魔化す、そんな光景を思い浮かべるのではないだろうか。因みに貨物用EVは引越しや家具・家電の搬出入時に役立つし、ペット同伴時のEVとしても兼用できる利点もある。
その他内装の細部に至るまで欲を言えばキリがない。折上げ天井、天井埋込型空調(=天井カセット型エアコン)、極厚・無垢の床材、毛足の長い絨毯、ガス・IH併用&食洗機・ガスコンベック付の特注キッチン(天板:天然大理石)、トイレ手洗いカウンター、1坪サイズ浴室・浴室TV&ジェットバス、全室床暖房システム・・・。
つらつらと物質的な理想論ばかりを語ってしまったが本コラムの結びにどうしても申し上げておかねばならないことがある。建物に比類無き贅を尽くしたとしても、其処に住まう人が利己的な迷惑行為でコミュニティの風紀を乱すようでは意味が無いということをくれぐれもお忘れなく。「建物にも居住者にも相応しい品格、精神的豊かさがあるべし!」ということである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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