思うところ209.「私は警鐘を鳴らす」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ209.「私は警鐘を鳴らす」




    <2025.12.15記>
    早いもので令和7年の師走も月半ばとなった。除夜の鐘が厳かに鳴り響くであろう大晦日も近い。煩悩の数だけ梵鐘を撞いて邪気を払う神聖なるお勤めは師(僧)と参拝者にお任せするとして私は本年の締め括りに今一度世間に向けて警鐘を鳴らすとしよう。コラム№55(憂い)を読み返して頂ければお気付きになると思うが遅ればせながらその続編となる。もっとも、私が鳴らすのは激しく鐘を叩く音ではなく、不動産登記に関する問題点を憂慮する業界人が静かに呟く本音(問題提起)に過ぎない。

    不動産登記のあり方に改善が進んでいることは素直に認める。平成17年以降は不動産登記法の改正により権利証(=文書、従前の権利証は今後も有効な証書)に代わって登記識別情報(=数字とアルファベットで構成される12桁の符号)が発行され、登記手続きはインターネットを利用したオンライン申請が可能となった。そのことについてはコラム№205(消えゆく権利証)で述べた通り。これは時代に即した当然の流れだと思う。今後はシステム障害による事故や情報漏洩事件が発生しないことを祈る。

    昨年(令和6年)はようやく相続登記の申請が義務化された。(令和6年4月1日施行)これにより相続等により不動産を取得した相続人はその所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記をしなければならない。(遺産分割協議が行われた場合は遺産分割成立の日から3年以内)但し、ペナルティは10万円以下の過料である。過料とはあくまでも制裁金としての金銭的負担のことであり、刑事事件の罰金とは性質が異なる。交通違反切符と同じく前科にはならないし、正当事由があれば直ちに課されるものでもない。それでも長らく野放しにされていた相続登記の未了問題にようやく法律のメスが入った感がある。にも拘らず放置され続けるのであれば、罰則規定が段階を踏んで厳しくなり、いつの日か容赦無く大鉈が振るわれることになるかもしれない。

    本年(令和7年)4月21日からは所有権に係る登記(相続登記も含む)の際にメールアドレスなど一定の所有者情報を申請書に記載することが義務付けられた。一定の所有者情報とは次の3点。①所有者氏名のフリガナ②生年月日③メールアドレス、である。(このうちメールアドレスが無い人はその旨を記載=法務局からの通知は文書になる)これが新たな重荷になると身構える人もいるがそうではない。来年(令和8年)4月に開始されるスマート変更登記(=登記官の職務権限により住所変更登記)に備えたものであり、むしろ所有者の負担を軽減する新制度になる。転居や婚姻で住所・氏名に変更が生じた時、登記官が住基ネット情報を検索して無償で変更登記をしてくれるのだ。その分は司法書士の仕事が減ることになるのだろうが我々にとっては合理的な制度改革であり好感が持てる。

    では、不動産登記法の改善傾向を認めつつ、私が一体何を憂慮しているのか。単刀直入に申し上げるとそれは「外国人の海外住所登記」である。勿論、資本主義を謳う我が国が今さら市場の門戸を閉ざして時代を逆行してはならない。また、海外投資家がもたらす海外マネーの恩恵を多大に受ける当社が感謝こそすれど差別意識や偏見があろうはずもない。WTO加盟国である日本国がGATS協定(General Agreement on Trade in Service)における内国民待遇を遵守せんとするお国の事情も十分に理解している。だが、私は不動産業に従事する者として其処に住まない区分所有者(投資家)の管理運営に対する無関心によってコミュニティが崩壊寸前に陥る危機的な状況を間近に見聞きしているのだ。一括りに外国人投資家と言っても、不動産投資家(区分所有者)と株式投資家(株主)は投資対象の運営に対する関与の度合いが全く異なる。前者はひたすらに沈黙を貫き、後者はストイックなまでに物申す。(傾向がある。)

    嘗ての日本では家は住むために、しかも永住志向で唯1戸を買うものであった。だからこそコミュニティの管理運営は性善説に基づく有志のボランティア精神でも成り立っていた。その本質は今も変わらないと思うものの、国内外の富裕層が投資目的に区分所有物件を多数保有し、外国人が投機的に短期売買を繰り返す今はそう簡単にはいくものではない。所有者かつ自己居住者が少数派に陥ったコミュニティは、重要審議の取り纏めがとても困難なものとなっている。連絡がつかない、言葉が通じない、金銭的負担は拒絶されて徴収業務は難航する。特に小規模、かつ自主管理の共同住宅の理事長は虚しいまでの孤軍奮闘を強いられている。

    コラム№55(憂い)で提言した「相続登記の義務化」はある程度達成された。次なるは「海外住所登記の是非(または代理人選出制度)」や「区分所有権の過剰細分化の制限」を真剣に考えなければならない。国籍の登記を義務付けて現状を分析すると胸を張る政治家もいるが統計的な把握をしたからとて何ら解決にはならないだろう。こと区分所有物件に関する所有権保存と移転のあり方だけは可及的速やかに見直す必要がある。

    以上の通り今年の取引を振り返ってそう思った。断っておくが私は徒に区分所有の外国人の海外住所登記を憂えているわけではない。ある外国人投資家との不動産取引で実際に数々の難題に直面したのである。海外在住の売主には時間と金の無駄になるからと契約日直前になって来日を拒否され、所有権移転登記を託す司法書士にはオンライン面談による本人確認方法に難色を示され、海外における度重なる住所移転と登記識別情報通知の紛失で本人確認情報の作成が困難を極め、買主が負うことになる売買代金の源泉徴収義務の何たるかは全く理解されず、万が一補正登記が必要になっても相手は海外にいて協力を得られるかの確信が持てない。(=所有権移転登記の申請はできたとしても補正の必要があれば登記が完了しない。)今の制度設計ではそれらの問題が解決できないのである。この問題の本質が理解できた時、特に区分所有者は他人事と無関心でいられるはずはない。無論、問題を先送りして次世代にその解決を押しつけてはならない。それ程までに由々しき事態なのである。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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