
<2026.4.13記>
一棟の建物を区分して皆で所有するという新しい概念は1962年(昭和37年)4月に公布された区分所有法を以て誕生したと言っても良いだろう。現在61才の私が生まれる2年も前の事である。日本が高度経済成長期入りすると借家・社宅に甘んじていた庶民の購買力が急速に高まり皆が家を求めるようになった。そうなると住宅の供給不足は誰の目から見ても明らかなものとなり、人々の切実な願望(「夢のマイホーム」実現)に応える為にも必要に迫られた法整備だったと言える。それに住宅産業が活気づくと連鎖して耐久消費財(コラム№194参照)も飛ぶように売れた。要するに格好の景気浮揚策でもあったのである。
その区分所有法も今月1日付で一部改正(令和7年5月法案可決、令和8年4月1日施行)されたのだが、「老朽化マンションの管理と再生の円滑化を目的とした大幅な改正」と謳われる割には何か物足りない気がする。①決議要件の緩和、②再生手法の多様化、③管理計画認定制度の拡充が三本柱になってはいるが、その程度の改正で建替問題の抜本的な解決ができるとは思えないのである。そのような思いから区分所有法における建替協議のあり方については分譲事業黎明期における制度設計がそもそも間違っていたとする持論を前回のコラム№216(発想の転換)で展開したわけである。
私は区分所有の制度設計にそもそも問題があったと論じるばかりでなく、監督官庁が本来は分譲(区分所有)すること自体を認めてはならなかった杜撰な構造設計の建物も多いとの辛辣な見方もしている。その典型的な事例を挙げるとすれば、「床スラブ貫通配管」と呼ばれるもの。それは上階床下のスラブを貫通させた雑排水や汚水の横引管(専有管)が下階の天井裏の空間を経由して共用管(竪管)に繋がるという区分所有するには無理のある設計のことである。建築用語だけでは分りにくいと思ったので床スラブ貫通配管のイメージをデフォルメしたものを今回のコラム欄の挿絵にしてみた。この問題、今のところ然程表面化はしていないが本質はとても根深く昭和の時代に分譲された多くの区分所有建物の天井裏で静かに燻っている。
そもそも他人が出した雑排水や汚水が自分の天井裏を通るのは精神衛生上も明らかに宜しくない。私が最も問題視しているのは漏水事故が発生した場合の責任と負担の区分である。本来、専有管であれば維持管理は上階の責任と考えるべきだが階下に食い込む専有管では改修工事をしたくとも勝手にできるはずがないからだ。もし貴方が下階の住人(被害者)だとしたら、改修工事の為だとしても上階の住人(加害者)の都合で自宅の天井を一旦壊すことに納得できるだろうか。また、改修工事の為に3日程度外泊してくれと突然言われても承服できないと思う。ましてや、漏水事故を未然に防ぐ為の改修工事なら尚更のこと、その必要性は建築の門外漢には全く理解できないと思う。不動産業界でさえもこの問題を正しく理解できている者は少なく、建築業界は大規模修繕工事(配管更新工事)の他には妙案を見出せず、法曹界にとっても紛争解決は難しく、無論、行政が介入すべきことでもない。漏水事故が頻発するようになってからでは遅いのだが・・・。
何故階下の住人の迷惑になりかねない無責任な設計が横行したかというと、その方が分譲して得られる利益がより大きくなるからだろう。例えば、床スラブを貫通させずに配管すると10階までしか建たないところ、床スラブを貫通させて階高を余分に確保できれば11階建が建つ、言い換えると「違法性を問われずに容積率が効率良く消化できて販売面積が増える」、としたら貴方が経営者ならどう判断するだろうか。合法的に販売面積が増えれば売上高も上積み(業績向上)できるし、割安に販売して即日完売(早期資金回収)することも可能になる。事実、割安感があって人気化した新築分譲マンションの販売は好調を極め、先着順受付なら前日から泊まり込みをしてまでの長蛇の列が、抽選なら高倍率がゆえ落選が当り前、宝くじ同然に扱われた時代が長らく続いた。庶民でも購入可能となる手頃な価格帯の住宅の大量供給が望まれていた時代に分譲会社は築後30年以上先の不確定な漏水事故や紛争のことなどには関心が無く、良識ある設計士、商品企画スタッフが遠い将来の漏水事故を憂えて苦言を呈そうものなら、その人はプロジェクトの和を乱す者として担当を外されてしまったかもしれない。その一方で買主(一般消費者)側には漏水事故に関しての予見能力は全く無かったと思う。大変残念なことだが、売主(分譲会社)は目先の利益を追い求め、買主は割安感ばかりを評価してしまった。
問題の「床スラブ貫通配管」の責任区分については平成12年3月21日の最高裁判所第三小法廷判例(建物共有部分確認等請求事件)において「スラブを貫通した配管は専有部分に該当せずに共有部分」と判断されている。この判例に従えば、「スラブ内の配管は管理組合が責任を負う範囲」ということになる。だが、私は嘗て大手不動産会社が分譲した築古(所在:港区、昭和40年代築)の物件を取引した際、階下に繋がる汚水管が上階の専有管である旨が明記された販売当時の重要事項説明書(別表)を入手して愕然としたことがある。おそらくその分譲会社は将来起こる紛争を予見していたからこそ事細かに図解してまで説明したのではないかとの疑いは核心を突くものだと思う。私に言わせれば専有管の範囲を明記したとてこの問題の根本的な解決にはならないのだが・・・。なぜなら、住みながらにして改修工事をする合意形成は難しく、その改修費の財源が確保できている管理組合は少ない。
あくまでも個人的な見解だが、床スラブ貫通配管の改修工事は維持管理を為し得る立場の者がすべきであって、言うなれば配管の「支配力の有無」を以て責任と負担の範囲を決めれば良いと考えている。改修工事費の負担区分に関しては判例は充分理解はできるものの、分譲時に専有管と重要事項説明して販売されたものがある日突然に共用管だと判断するのには疑問が残る。そう考えると床スラブ貫通配管の床下部分には上下階の区分所有者は疎か管理組合とて支配力が無いに等しい。つまり、分譲(区分登記)予定の建築計画であれば、「(守銭奴的)そんな設計、ならぬものはならぬ」と毅然とした建築指導ができるよう区分所有法以外の関係法規を整え、100年の計を以て未然に紛争を防ぐべきであったのである。

このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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