思うところ207.「封水(ふうすい)」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ207.「封水(ふうすい)」




    <2025.11.12記>
    不動産業で「ふうすい」と言えば大抵の人が思い浮かべる漢字は「風水」であると思う。それは言わずと知れた中国発祥の「気」の調和を重んじる生活の知恵(学問?)みたいなもの。それを不動産購入の決め手にする人は沢山いる。だが、この度取り上げる「ふうすい」は漢字で表すと「封水」の方。どちらかと言えば不動産の管理に携わる人が使う用語だと思う。残念ながら同業者であっても不勉強の人が多いのかこの用語の認知度は低い。

    封水とは排水管の途中(挿絵左側参照)や排水口(本コラム挿絵右側参照)に一定量溜めておく水のこと。その水が溜まる箇所そのものは「排水トラップ」と呼ぶ。主な役割は雑排水の臭気を食い止めることである。敢えて其処(トラップ)に水を残しておくことによって排水管から上がってくる臭気のみならず、害虫をもブロックするわけである。要するに水で作る配管の蓋(封)のようなものであり、生活衛生環境の防衛線的な役割を果たしていると考えれば良いだろう。便器のトラップに残しておく水も同じく封水と称するものであり、汚水の臭気に対して果たす役割も雑排水のそれと同じである。

    「封水が切れる」とは排水トラップの水が蒸発や逆流で空になってしまった状態を指す。だから、入居者から「排水口が臭い!」と苦情や相談が寄せられた場合、私は無暗に現場に急行するよりも先ずは封水切れを疑って「長期間留守にしていませんでしたか?(特に夏場)」と質問することにしている。また、洗濯用の防水パンがあっても近隣のコインランドリーを利用、自前の洗濯機を置かずに単なる物置スペースとしている人もいるし、居宅を事務所に転用している場合は風呂があっても全く使わないことは間々ある。その場合は住んでいながらにしてトイレ以外は水廻りを使用していないにも等しいから排水トラップの封水が切れるに従って臭気も上がってくる。それはゴキブリ等の害虫の侵入を許すことにもなるし、場所や口径によってはネズミ等の害獣の出入口ともなりかねない。コラム№172(使わないと傷むもの)に書いた通り、建物は適度に使用した方が良いのである。

    ※豆知識:残念ながらクマネズミはその気になればS字トラップの封水などいとも簡単に突破するだけの身体能力を有する。

    賃貸管理をする我々にとっては実に迷惑千万の暴挙に他ならないのだが、キッチン排水口の防臭わん(挿絵右側参照)を捨ててしまう入居者がいる。確かに排水口の清掃を長期間怠ると防臭わんにはカビやヌメリがこびり付いて見るに堪えない程に汚くなる。コラム№178(エアコン故障)に書いた通り、日々のちょっとした清掃がとても大切なのである。ところが、それ無くしては成り立たない排水トラップの構造を知らないが為に「汚いから清掃する」のではなく、「汚いから捨ててしまおう!」と考えるらしい。臭気発生の原因が自分の過失にあることが判明するや、「弁償すればいいんでしょ!」と逆ギレする人もいるが、旧型で希少性の高いキッチンの同型・同サイズの防臭わんは容易には見つからない。たった1個の小さな部材のことだからこそ排水口のみを交換するような手間の掛かる工事の負担金は貸主・借主のどちら側にも受け入れられ難く、大きな軋轢が生ずることは火を見るよりも明らかなことである。

    哲学の分野に属すると言っても過言ではない「風水」と読みは同じながら建築用語に過ぎない「封水」である。それにも拘らずこの度「封水」の方を取り上げたのには、封水の何たるかを少しでも多くの人に理解して貰って建物の維持管理に関する詰まらぬ苦情や必要不可欠な部材の無断廃棄を無くしたいとの思いがある。「適度に通水しろ」だとか「日常清掃が大事」だとか「勝手に捨てるな」などと説教じみたことを言うつもりはない。「何故そうなのか」を理解して貰わねば賃貸管理が良い方向に進まない気がするのだ。

    そういう意味では微力ながら啓蒙活動の一環としての発信でもある。日本人の探究心の欠如や予見能力不足は詰め込み式の教育(丸暗記方式)の弊害ではないだろうか。これからはAI(人工知能)依存症なるシンドロームも顕著化して自分の頭で考えることができない人が増えるに違いない。自分の頭で考えなくとも、「ググれば、タップすれば、スワイプすれば、」どころの話ではない。今やAIが搭載された物品に友人に語りかけるように問えば、恰もその筋の専門家が其処に存在するかのような的確な答えが即座に、しかも生身の人間に近い音声で返ってくるのだから。

    何はともあれ本コラムの挿絵をじっと見詰めて暫しご自身でその構造と役割を考えてみて欲しい。「百聞は一見に如かず、されど一見は一考に如かず」と故事成語に私なりの色を加えて細やかなアドバイスとさせて頂こう。本当は1973年に公開され、世界的な大ヒット映画となった「燃えよドラゴン」の冒頭で名優(格闘家)ブルース・リーが言い放った名台詞「考えるな、感じろ!」の方が好きなのだけれど。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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