思うところ187.「鍵は重要なれども」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ187.「鍵は重要なれども」



    <2025.1.14記>
    要人ならキーマン(キーパーソン)、要点ならキーポイントといったようにキー(鍵)という単語が「重要」を意味して用いられていることに異論は無いと思う。プロレス界にはキーロック(関節技、別名:鍵穴固め、柔道技:「腕挫膝固」の類い)なんていう絞め技もある。それは技の見た目から付された技名に過ぎないが、「決め手(技)」と解釈すれば絶妙なネーミングだと思う。不動産業における「鍵の交付」も重要な手続きの一つであり、時として「建物の引渡し」と同義であると言っても過言ではない。不動産は読んで字のごとく持ち運べるものではないのだから。今回はその重要なる物、「鍵」についての思うところ。

    昭和の時代までは安価で合鍵が作り易いディスクシリンダー錠(特徴:鍵穴が「く」の字型、子鍵が非対称のギザギザ)が主流だった。ところが、単純構造であるが為に防犯性が低く、2000年頃からピッキング被害(特殊用具による不正解錠)が多発した結果、今では殆どのメーカーが廃盤にしている。その後継とされるのがロータリーディスクシリンダー錠(特徴:鍵穴が「W」型、その開発者:美和ロックの「U9」が市場を席捲)であり、違う子鍵を差すと内部のロッキングバーがタンブラーの回転を止める(凹凸が正しく揃った時のみタンブラーが回転する)ことによって防犯性を高めている。流石にディンプルキー程の防犯性は期待できないが容易にピッキングされることは無く、そのコストパフォーマンスは高く評価できる。(ディンプルキー=鍵山が無く表面に小さな窪みの配列があるタイプ。大幅にコストUPするが窪みの組合わせは理論上数十億通り以上でピッキング対策に効果的)少々言いにくいことではあるが、ディンプルキーに比べて「鍵が複製され易い」という弱点が賃貸管理物件においては「鍵を複製し易い」という利点にもなっている。

    ディンプルキーにも少し触れておこう。鍵穴に対して摩擦の少ないディンプルキーでも汚れたままの鍵を使用し続けると抜けなくなってしまうことがある。かく言う私も内装解体中で埃まみれのリフォーム現場を視察した折、鍵が鍵穴から抜けなくなって帰るに帰れず困ったことがある。その時は鍵の専門業者を呼ばざるを得ず、想定外の時間と費用を浪費してしまった。為す術も無く待つことおよそ2時間、ようやく到着した業者が何よりも優先して確認したのは即金払いの可否だった。私はその支払いを確約、併せてドアスコープを一旦撤去することに同意したところ、其処から特殊な金具を差し込んでいとも簡単に解錠してしまった。(所要時間僅か数秒)私が興味本位でその業者に色々質問してみたところ、再三に渡って代金支払いの意思確認をしたのはあまりにも簡単な作業に見えるから解錠後に満額支払いを渋る人が多いのだと言う。(参考:不法侵入目的の「サムターン回し」対策として特殊解錠用具の所持の禁止等に関する法律、通称「ピッキング防止法」が2003年9月1日施行=当社の立場では特殊解錠用具の入手・所持はできない。)その様なセキュリティーの脆弱性を目の当たりにした私とて対策を提案できるとすればサムターンカバーの設置や二重ロックにすることぐらい。但し、鍵の汚れなら容易に防げることである。鍵を清潔に保ち、鍵穴専用の潤滑剤(1本1500円程度)を時折(私の経験則で言えば半年~1年位の間隔)は適量を注入して欲しい。(それなら油のようにベタつかないし粉末タイプもある。油は絶対駄目でその後埃が付着してむしろ悪化する。潤滑剤の注入過多もNG)安易に「鍵が壊れた!」と我々を呼びつける前に入居者にもすべきこと、できることがあると思う。

    紙面の関係上、鍵の種類を全部説明するわけにもいかないが新築物件を購入する人は「コンスキー」という鍵の存在を覚えておかれると良い。同業者でさえ新築部門以外には馴染みが無い「コンストラクションキー」のことである。略して「コンスキー」と呼ぶ方が一般的。これは工事現場に出入りする関係者が使う鍵である。コンスキーは施主や購入者が純正の鍵を差し込んだ瞬間にシリンダー内の構造が変化して二度と使えなくなる。だから、建物引渡し後に工事関係者が勝手に入室することはできない。これを知っていれば新築物件購入時に要らぬ心配を一つしなくて済むと思う。

    オートロックシステムを採用した共同住宅やオフィスビルにおける留意点も申し上げておく。その操作盤は鍵と暗証番号を併用することが多いのだが、鍵山のあるタイプの鍵を採用している場合は複製された物の使用はやめた方が良い。複製の複製はもっての外、シリンダーの内部が傷付いて故障の原因になる。同様の理由で複製を繰り返した鍵を使えば玄関扉のシリンダーまで壊れてしまう。精度の低い鍵山の抜き差しを繰り返すということは「鍵穴でノコギリを引いているようなもの」と心に留め置かれたい。また、テンキーの暗証番号は時折変更すべき。長年同じ番号を使い続けると特定のボタンのみ劣化が進んで操作盤の寿命を縮めてしまう。それより問題になるのは手垢等の汚れや偏摩耗(車のタイヤで言うところの「片減り」)で暗証番号が推定されてしまうこと。10個のボタン(0~9)があっても汚損したボタン4つ(4桁)に特定されてしまえば暗証番号は24通りに過ぎない。要するに窃盗団に暗証番号のヒントを与えているようなものである。何よりもオーナーや管理会社の防犯意識の低さを露呈することになる。その点はコラム№75(ゴミ置場)で述べた犯罪心理学上の「割れ(破れ)窓の理論」の該当箇所を今一度お読み頂きたい。

    以上のような諸事情も影響して先進の新築マンションでは従来の鍵に代わる生体認証(指紋、顔、瞳の虹彩、声、静脈等で本人を特定するバイオメトリクス認証)システムの採用が増えている。そんな時代に信じ難いことかもしれないが、私の実家では昭和の終わり頃まで玄関に鍵を掛ける習慣が全く無かった。田舎ならではの過ぎたる大らかさは褒められたものではないが、村社会においてはよそ者が入ってくればすぐに判るし、近隣住民の目が犯罪の抑止力になっていた。少なくとも祖父か祖母、家族の誰かしらが敷地内に居て留守になること自体が少なかった。財布は仏壇に置いておけば盗まれることは無い(仏の前で悪いことをする人などいないだろう)と本気で信じていた。は戸外で飼うのが当り前で番犬の役割も担っていた。

    今はどうだろう、良くも悪しくも都会では隣に住む人がどんな人かもろくに知らない。警戒吠えが激しい犬は嫌われるし、そもそも愛玩動物の域を超えた家族の一員に畏れ多くも門番の役割など求めてはいない。ハイテクの防犯グッズを多用しても海外で人気の高級車は真っ先に窃盗団の標的となり、高齢者の家に平然と強盗団が押し入る。そんな重罪(刑法第240条:強盗致死の罰則は死刑または無期懲役)に「闇バイト」などと馬鹿げた呼称を使うのはやめて欲しい。鍵は重要なれども真に守るべきものは何であるのか、今一度見つめ直さなければならない時だと思う。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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