思うところ195.「自転車」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ195.「自転車」




    <2025.5.13記>
    「(東京都)中央区で一番速い乗り物は?」と問われたら、「自転車!」と即答して戯れるのが正解だろう。これには銀座・日本橋周辺を主要な営業エリアとする不動産業界人なら腑に落ちるものと思う。他愛も無い「とんち」の類いに過ぎないが、その本質はお客様を車でご案内したくとも行く先々で一方通行に阻まれることに対する嘆き節である。道路が整備された先進の都市であるにも拘らず、頂上がすぐ其処に見えていながら辿り着かない山登りをしているような、砂漠に出現した蜃気楼を追いかけているような、そんな歯痒さと徒労感を覚える迷路ばかりなのである。

    ようやく現地に到着しても仮置きできる駐車スペースなど無いし、有料駐車場は往々にして満車である。やむを得ず路駐すれば、緑のおじさん(蔑称:ミドリムシ)と呼ばれる駐車監視員がすぐに近寄ってきて容赦なく違反切符を切る。だから手痛い反則金支払いの憂き目に遭わぬよう当社が創業して数年間は自転車2台を事務所内に保管していた。

    自転車に纏わるエピソードには事欠かない。創業して間もないある日のことである。日本橋本町のビルの売却相談に私が自転車で急行したところ、そのビルオーナー宅の家政婦さんを不安な気持ちに陥れてしまったことがある。(ビルオーナーに「自転車で・・・」ヒソヒソと耳打ちしていた。)どうやらその家政婦さんは高額不動産を扱う人は高級車に乗って部下(又は秘書)を伴って現れるという先入観をお持ちだったらしい。当社から日本橋本町は然程の距離ではなく、社用車の入出庫(=機械式P)は面倒くさいし、タクシーを使う程のことでもなく、徒歩で向かうにはやや遠いと考えただけのことだったが当時の私はまだ40代、元気を持て余していた頃でもある。勿論、少しでも早く商談に臨みたいという逸る気持ちもあったと思う。(幸いにもビルオーナーは私の交通手段など些末な事と意に介せず商談はトントン拍子で成立!)

    会社員時代の元部下A君(当時中央区在住)に飲んだ席でその話をしたら、彼も自転車で移動する私を見かけたことがあったらしく、前述の家政婦さん同様に「会社の代表が自転車での移動を余儀なくされる程の業績不振に陥っているのではないかと訝しく思ってしまった。」とその時に受けた印象を正直に話してくれた。申し訳なさそうに頭を掻く彼の姿にそんなふうに思わせてしまったことを猛省した。不動産業という仕事柄、見た目や常日頃の立ち居振る舞いが如何に大切なものであるかを痛感した次第である。

    「見た目」と言えば思い出すと吹き出してしまう面白いエピソードがある。東京湾岸部に位置する中央区はご存じの通り平坦地ばかり。ある時、営業マンのB君(現在は当社から立派に独立を果たしている。)が自転車のギアをトップに上げて足の回転とスピードが噛み合わない不自然な移動をする姿を見かけた。怪訝に思って呼び止め、その理由を尋ねてみたところ、「その方が忙しそうに見えて格好が良いじゃないですか!」との珍回答。いやいや、シャカシャカと奇妙な音を立ててペダルを漕ぐ足が無駄に空回りをしているだけである。どう見ても滑稽な姿であることを自覚せねばならない。それに「魅せるべき」は仕事の中身である。

    あまり笑えぬエピソードだが学生時代にお巡りさんを説教したことがある。ある晩、私が住んでいた吉祥寺北町から吉祥寺東町の友人宅へと鼻歌交じりに自転車を走らせていた時のことだ。八幡宮前の交差点(当時は派出所があった。)に進入したところ、背後から「待ちなさい!」とお巡りさんの声。そう言われても横断歩道の信号が点滅していて危ないからスピードを上げて一先ず横断歩道を渡りきった。そうしたら、赤信号を無視して凄い形相で「コラァ、待てぇ~」と追いかけてきた。私にやましいことなど無く逃げるつもりなど毛頭無かったのだがそう見えてしまったのだろう。盗難自転車の取り締まりを強化していたらしい。私は理路整然とお巡りさんの呼び止め方が如何に危険なタイミングだったかを説明し、緊急避難行為の何たるかを説いた。「それにコラァ、とは何だ!失礼だろ?」私の剣幕に気圧された新米と思しき若いお巡りさんは自転車泥棒扱いして罵声を浴びせた非礼を詫びて「もう勘弁して下さい。」とばかりに今にも泣き出しそうな顔をしていた。傍から見ればこれもカスハラ

    「自転車泥棒」で思い出すもっと笑えぬエピソードは会社員時代に部下が巻き込まれた冤罪事件、郊外の大規模な新築分譲マンションの販売現場での出来事である。契約担当のお客様Cさんから住替えが上手くいったお礼にと不要になった中古自転車を貰い受けたD君、駅から遠い現場だったこともあって有り難く頂戴して彼が仕事で使用するのを黙認していたところ、ある日自転車泥棒の容疑で捕まってしまった。Cさんがネットオークションで入手したというその自転車は盗難届が出ていたのだと言う。お客様に恥をかかせるわけにはいかないから罪を被って調書(粗大ゴミと勘違いして乗っていたとする作り話)に署名したとの事後報告に私は激怒した。そんな美談仕立ての解決策を私が褒めるものと見当違いしていた腹の内を見抜いて余計に叱責した。(傍から見ればこれはパワハラ?)それ程までに彼の独善的な対処法はまかり間違えば会社全体のイメージダウンに繋がるものであり、場合によっては系列組織の社会的信用まで失墜させかねない愚行以外の何ものでも無かったのである。(彼は正々堂々とありのままを説明すべきだった。)穿った見方をすれば、そもそもCさんは怪しげな粗大ゴミの処分をD君に押しつけたに過ぎなかったのかもしれないし、もしかしたら・・・。

    冤罪と言えば、令和元年に東証一部に上場する不動産会社の社長が全くの濡れ衣(業務上横領)で逮捕され、無罪判決を勝ち取るまでの長きに渡り、長年苦労して築き上げた地位や名誉を失うという他人事ながら強い憤りを感じる事件があった。本コラムの書き出しを「一方通行」で始めておきながら、無関係の「横道」に逸れるようなお願いとなってしまうがこれを機に申し上げておく。私が何らかの事件に巻き込まれて冤罪を主張したならば、それは間違いなく事実無根の罪を着せられたということである。相手が国家権力であろうとも私の心が折れることは無いと思うが、その時はせめて本コラム欄の読者には私の無実を信じて欲しい。

    さて、「自転車」とかけて何と説く。「無能な経営者の悪あがき」と説く。その心は?「常に自転車操業!」幸いにも当社とは無縁の単語である。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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