
<2026.3.16記>
本コラムは前回のコラム(№214)の後編に位置付けるもの。前編では私が身を置く不動産業界の現状に対して「やばい!」と嘆いたその理由を昨年の事案を基につらつらと書いた。だが、此処からの愚痴にも近い低次元の嘆き、その原因となった些末な出来事の方がある意味では本当にやばい!(=So bad!)不動産業界の相変わらずのモラルの低さや緩んだままのビジネスマナーに警鐘を鳴らすためにも前編に続き買換案件に纏わる苦言を呈す。
さて、前編からの続きの話となるが顧客の為に住替え先となる再生再販の中古マンションの代理取得をすべく対象不動産の売主(C社)の事務所に出向いたその日の出来事である。押捺責任者(社長?)の都合とやらでC社に(会社印を持ち出せる立場の)私の方からC社の希望日時に出向く約束になっていた。営業担当が会社印を持ち出せない会社は多いからそれは然程珍しいことではない。むしろ、その方が健全であり正しい危機管理であると思う。だが、当社は柔軟性ある機動力こそが強みの一つ。プレイングマネージャーの私が会社印を自由に持ち出せる立場にあって相手方に出向かねばならないことには全く抵抗感は無い。そして業者間売買(B to B)だからと言って礼節を軽んじることも無い。だから、初取引となる相手に対して失礼無きよう普段は身に付けることのないネクタイを締め、遅刻することがあってはなるまいと少し早めに出掛けた。
予定通り早めに到着するも1階ロビーにて暫し待機、約束の時間丁度になるのを待ってC社の事務所受付で担当者(営業担当者は20代?女性、以下「Dさん」)を呼び出した。流石にめでたい契約締結日というだけあってDさんは満面の笑みで私を出迎えてくれた。しかしながら、Dさんに着席を求められたのはフロア末席の丸テーブル。「席は他にも沢山あるし、私以外に今は誰もこのフロアに居ないのに何故此処(入口付近)にするの?契約手続きだよ?気が利かない人だなぁ。」と私は胸の内で呟いた。誤解無きよう申し上げておくが私は特段気位が高いわけではない。ただ、手付金としての現金200万円を授受するのに何もわざわざ共用通路から丸見えで社外の人までもが背後を通る出入口付近で契約手続きをする必要は無いだろうと合理的に考えただけである。
くどいようだが私は徒に気位が高いわけではない。それでもフロア奥に見える応接室(全3室)の扉は開放されており、どれもが一目瞭然で空室と分かるから尚更合点が行かなかった。「空室の応接室があるなら契約締結の場とすべきでは?」その様に違和感を覚えるのは常識的な感覚だと思う。それに1週間前から予約しての訪問だったのに飛び込み営業どころか宅急便の受け取りと変わらぬ扱いではあまりにも失礼な対応ではないかと思った。偉そうなことを言うつもりは無いが私は営業マンであると同時に会社の代表でもある。
驚いたのは接客スペース裏手のバックヤードの出入口から湧くように出てきたカジュアルな身なりの若者達の振る舞いだった。いや、今時カジュアルな服装は当り前だから清潔感さえあればそれはどうでも良い。C社の商品企画の担当者と思しき若いスタッフ5、6人がパソコンを小脇に抱えて私に会釈することさえなく、喧しく会話しながら目の前を素通りして応接室に雪崩れ込んで行く。其処に持ち込まれたホワイトボードの書き込みを盗み見る限り、どうやら応接室を使ってリノベーション事業(中古マンション再生)に関する間取り・設備・仕様についての企画会議をするらしかった。「他愛もない社内打合せが契約に訪れた買主よりも優先される?」しかも依然として残りの応接室は2つとも空いたまま。
再三に渡って自己分析を申し上げる。私は人としては誇り高くありたいと思ってはいるが、断じて気位が高いというわけではない。お茶一つ出されなかったとしても今のご時世そういうものだと承知している。(契約手続きを手短に済ませたい?)Dさんの意を汲んだ私は気を取り直して、「じゃ、お互い(不動産の)プロ同士なんだし、チャッチャ(=さっさ)と契約手続きをするとしますかぁ!」と不本意ながら相手に合せて少しチャラくて軽いノリの同業者を演じた。(私はその手の腹芸も難なく熟す。)但し、その丸テーブル上には契約で必要になる文具が何一つ(ペン1本すら)置かれていなかった。
一方的に買主負担とされた契約書に貼付する収入印紙も持参してはいたが海綿スポンジが無いので仕方なく私は自分の鞄からスティック糊を取り出して契約書に貼った。(昭和の時代と違って今時は自分の舌で印紙を貼るのは極めて下品な行いとされる。)その後、契約書に調印する段になってもスタンプ台も押捺マットも朱肉すら用意されない。やむなくそれら全てを鞄から取り出して手際よく買主側の捺印を済ませた。また、Dさんが現金を数えるのに四苦八苦しているのを見るに見かねて私の鞄から徐に取り出したポータブルの小型現金カウンターをそっと差し出して使うことを促した。
次から次へと必要な物が出てくる私の鞄はDさんの目にはドラえもん(=子供向け漫画のキャラクター)のお腹にあるポケットのように映っていたかもしれない。(私は出先で契約する際はこの程度の文具は持ち歩いている。)但し、Dさんは楽ちん、楽ちん、これ幸いと眺めているだけだった。そもそもDさんは宅地建物取引士の資格を有していない。(Dさんに確認してみたところ、「来年こそは頑張ります!」との回答だったので契約当日に初めて彼女の無資格を知る。)それに重要事項説明書等に記載されていたにも拘らず会ったことも話したこともない宅地建物取引士は疎か、当初の約束(契約予定価格)をあっさりと反故にした上司や代表は息を潜めるかのように契約の場に最後まで現れもしなかった。未遂とは謂えども契約直前に所謂ドタキャン(土壇場キャンセル)をしようとしておきながら最後まで社として詫びの一言も無かったわけである。
こうなると何の為に相対(あいたい)の契約としたのか素朴な疑問は残ったが、その後Dさんは売主側の押捺をするためにバックヤードへ。契約書類全ての押印完了を待つ間も胸の内のモヤモヤ感は募るばかりだった。だが、私の使命はあくまでもA様の新居を確保(代理取得)すること。こんな無味乾燥な契約手続きなどさっさと終わらせて帰ろうと思った。Dさんに和やかな挨拶をしての帰り際、よくよく考えれば約束されていた領収証の交付がない。着金確認が面倒だからと手付金を現金にすることを希望したのはC社側である。契約の無事完了が確認できたこともあり、流石に物申しておかねばと私は意を決した。「Dさん、いい加減にしてくれる?」私はそれまでの紳士モードを突如解除、古き良き雷おやじモードに切替えてカスハラ扱いされるのも恐れずにそれまでの問題点を列挙して暫くの間Dさんへのお説教タイムに突入したのだった。もっとも、営業担当個人の資質や良識の欠如はさておき、本質的な問題は契約直前に守銭奴的な駆け引きをしておきながら、(引け目?)業務遂行能力の無い素人同然の若い担当者に重要任務を押しつけて先輩も上司も我関せずの社風そのものにあることは明らかであった。
進化論を唱えたダーウィンは「生き残る者」は「最も強い者」でも「最も賢い者」でもない、「変化できる者」だと言っている。私もそう思うからこそ業務の改革・改善・改良を心掛けている。しかしながら、何時の時代も変わってはいけない、変えてはいけないものだってあるだろう。某女子大学の校訓は「恥を知れ」である。まさにその通りだ。我々は如何なる時も恥ずかしい仕事をしてはならない。

このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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